津軽照子『秋・現実』Ⅰ (モダニズム短歌)

・ひるの月かげ 嫁(ゆ)く人の
 見られねばならぬかほを粧へ 

・かけすすりぬけた林の隙きま
 しろいあかりの おもひでを見た

・茨の實いかに色づいても枯野の
 孤獨(ひとり)のつみが ゆるされぬか

・いつぴきの栗鼠がすむ枯野原
 地軸さわさわしら雲をくり

・郵便配達夫(ゆうびんや)のうしろを霧が追つてゆく
 記憶はひらかず

・沖へカメラむけて虹のいろをかぞへる少女(をとめ)ら
 ひらひら波がもつれる

・砂にひろふ貝殻 二つあへば
 虹のかげをいれやうとおもふ 

・飛行機 青波の底へとばしたい と少年は念ずる
 ゆふぞらのよごれ 

・きいろい鳥射おとされてガチヤンとなる
 こんなおとについえて憂欝はさびしい

・ききと波に囀る水着の少女(をとめ)ら 疲れて
 射的店に廻轉する小鳥ら

・木はみどりのふかれふかれて風ぞら
 ひとすぢのながれをもとめる

・日ぐれる 堪へてゐる窓に
 梧桐(あをぎり)のしげりの底からの暗示

・雨の窓 桃の枝しめこんで 本よめば
 頁にうつくしい陽かげあり

・アトリエの女 花瓣(はなびら)のやうに臥(ね)て
 ばらの繪を描かうとおもふ

・人がいつてしまつた あと一面の
 眞青(まつさを)のむぎばたけ 

・しがれつと灯の一點にもつれかげろふ
 干潟の 人とゐられる 

・潟にこもるしろい貝殻ら
 あこがれは 沖のしらほとなり 

・ふなべりに そこにゆれてるまつくろの山
 星ぞらのスカイラインたどる 

・人ごゑばかりのはしけにしやがんで
 ゆれる ゆれる 星いつぱいのそら




津軽照子『秋・現実』Ⅱ
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小笠原文夫『交響』Ⅰ (モダニズム短歌)

・並びゆく少女がともの足揃ひ一様になびくすかあとの襞 

・嬬(つま)さびて今はあらめとおもひつつ少女すがたは眼に浮ぶもの  
          

・いまにして忘れがたかるひとのありわすれてしまへと首うちふりつ 

・ギリシヤ型の顔を少女が拭きたればへリオトロオプが清しく香へり

・ボイルのカラアすずしく搖れなびく少女の衿はなめらに細き 

・カツプルで歩いてをれど妻でなし愛人でなしけれどたのしも

・外人の子供とはなす日本語はなにか矛盾におもはるるなり 

・洋館の窓があけられ朝はやしピジヤマの少女が挨拶をせり 

・わが肩にくびもたせかけし異人むすめ搖るる横毛はふさふさとせり 

・そつと來ていきなり肩をたたくほどの浮きたる心持てとおもふに 

・つめたさにすぐる少女の沈黙をゆりうごかせどものいはぬかな 

・はなやかに立ちふるまはぬひとなればわれも黙りて一緒にゐるなり

・閉ぢし眼のまつ毛の長き子を抱くこの瞬間のこころあやしき 

・後れ毛がすこし亂れてなめらなる耳のうしろは綺麗すぎるなり

・しみじみと見れば少女のやはら耳お菓子のごとくたべて了ひたし 

・うつくしきひと等の話は眼を閉ぢてにほひと共にきくべかりけり

・ふわふわと天空をわれは飛びゆきて美貌の少女につき墮とされぬ 

・灰ざらのけむりのなびき見つめつつうつけ心をそのままにをり

・ひとりゐておもふはさみし朝顔のよごれし花を摘みとりながら 



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石川信雄『シネマ』Ⅰ (モダニズム短歌)

・春庭(はるには)は白や黄の花のまつさかりわが家(いへ)はもはやうしろに見えぬ 

・白鳥の子をかばふため家鴨等に棒ふりあげるこどもでありき 

白薔薇(しろばら)のをとめとわれはあを空にきえ去る苑(その)の徑(みち)の上なり 

・すみれさへ摘(つ)まうとしなかつたきよらかなかの友よここに死にのたれゐる

・われの眼のうしろに燃ゆるあをい火よ誰知るものもなく明日(あす)となる

・駱駝等のむれからとほく砂原によるの天使らと輪踊りをする    

・山の手の循環線を春のころわれもいちどは乗りまはし見き 

・スウイイト・ピイの頰をした少女(をとめ)のそばに乗り春の電車は空はしらせる  

・壁にかけた鏡にうつるわが室(へや)に六年ほどは見とれてすぎぬ 

・窓のそとに木や空や屋根のほんとうにあることがふと恐ろしくなる

・われつひに惡魔となつてケルビムの少女も海にかどはかし去る 

・羊等のなめ合つてゐる森のなか狼のやうにはしりぬけ來る 

・オレンヂやアツプル・パイを食べさせるかの苦しみよここに見おくる 

・奈落へとわれの落ちゆくを手つだひしかの人よ今も地獄にすめる

・地下道にあふれる花等はればれとながれゆく先のみな見えてあれ 

・今日われはまはだかで電車にのりてゐき誰知るものもなく降(お)りて來ぬ 

・ポオリイのはじめてのてがみは夏のころ今日はあついわと書き出されあり

・何もののわれそそのかす赤の黄の花火をひるも夜(よ)もうちあげる

・すなほなる羊等のいたくほめられゐる野の上の空にはげ鷹(たか)のとぶ 

・わが肩によぢのぼつては踊(をど)りゐたミツキイ猿(さる)を沼に投げ込む

・剥製(はくせい)のカナリヤを鳴かせきき入れるシネマの女(をんな)ふと思ひだす
 
・すつぱりとわれの頭(かしら)を斬りおとすギヨテインの下(もと)でからからと笑ふ
  

石川信雄『シネマ』Ⅱ



参考文献
岩崎芳秋『石川信夫研究』(短歌新聞社 2004)
忍足ユミ『天にあこがる 石川信雄の生涯と文学』(2017)
押切寛子『石川信夫の中国詠 : 歌集『太白光』の「江南春」抄を読む』(鶫書房 2019)
塚本邦雄『殘花遺珠─知られざる名作』(邑書林 1995)
石川信雄『シネマ―短歌集 (日本歌人叢書) 』(ながらみ書房 2013 復刻版)
石川輝子・鈴木ひとみ編『石川信雄著作集』(青磁社 2017)


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斎藤史『魚歌』Ⅰ (モダニズム短歌)

・白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう 

・時劫(とき)さへも人を忘れる世なれどもわれは街街に花まいてゆく

・くろんぼのあの友達も春となり掌(て)を桃色にみがいてかざす 

・アクロバテイクの踊り子たちは水の中で白い蛭になる夢ばかり見き 

・飾られるシヨウ・ウインドウの花花はどうせ消えちやうパステルで描く 

・みどりの斑點がかうも滲(にじ)んで來るもはや春だと云はねばならぬ

・世界地圖の上に置きたる静脈の手われわれはみな黄色人種 

・フランスの租界は庭もかいだんも窓も小部屋もあんずのさかり 

・敷石道は春のはなびらでもういつぱいパイプオルガンが聞えるそうな 

・はとばまであんずの花が散つて來て船といふ船は白く塗られぬ 

・春はまことにはればれしくて四つ辻のお巡査(まはり)さんも笛をひびかす 

・散つて散つてとめどない杏の花の道にまぎれこまうとダンテルを着る

・鳩笛をそれきり聞かぬ異人館の中庭は黄なたんぽぽの花 

・出帆の笛はあんまりかなしくて山の手街の窓は閉ぢてある

・びらびらの花簪のわが母にずつと前の春まちで出逢ひき 

・てのひらをかんざしのやうにかざす時マダム・バタフライの歌がきこえる

・あつさりと書いたかきおきの美しさこのやうな文字知ってたわれか 

・蜘蛛の絲にかかるはなびら黒い面紗(ヴエール)に散るはなびらも空よりこぼれ

・おろかしく生きてある日のうつくしくかげろふさへもまつはりにける 

・窓ぎはに黄の鳥籠を置きてより來て住む鳥のあるとおもへり

・面紗(ヴエール)のかげのうすい眠りもほほゑみもうつろひやすし春は黄昏(たそがれ) 

・指先にセント・エルモの火をともし霧ふかき日を人に交れり

・母がつぶやく日本の子守歌きけば我はまだまだ生きねばならぬ 

・五線紙に花散りやまずあたたかに黒い挽歌も音色ふくみぬ

・午後は勞れて額をぬぐふ街に棲む鳩は舗道に影ばかり舞へり 

・靴先にとらへた鳩のとりかげを空に放てば午後のま白さ 

・引金を引くあそびなどもうやめて帽子の中の鳩放ちやれ 

・歩いても歩いても星が上にあり白犬もわれも前向いてゆく



斎藤史『魚歌』Ⅱ
斎藤史『魚歌』Ⅲ


参考文献
天宮雅子『斎藤史論』(雁書館 1987)
岩田正『現代の歌人』(牧羊社 1989)
河野裕子斎藤史 (鑑賞・現代短歌)』(本阿弥書店 1997)
木幡瑞枝『齋藤史 存在の歌人』(不識書院 1997)
佐伯裕子『斎藤史の歌』(雁書館 1997)
桜井琢巳 『夕暮れから曙へ : 現代短歌論』(本阿弥書店 1996)
武川忠一『抒情の源泉』(雁書館 1987)
塚本邦雄『花隠論 ― 現代の花伝書』(読売新聞社 1973)
寺島博子『葛原妙子と斎藤史 『朱霊』と『ひたくれなゐ』』(六花書林 2017)
森まゆみ『恋は決断力―明治生れの13人の女たち』(文藝春秋 1999 文庫版『昭和快女伝ー恋は決断力』)
山名 康郎『斎藤史―不死鳥の歌人』(東京四季出版 2004)
横田真人『齋藤史論』(木菟書館 1976)
斎藤史樋口覚『ひたくれなゐの人生』随筆・対談・短歌(三輪書店 1995)
斎藤史俵万智・佐伯裕子・道浦母都子『ひたくれなゐに生きて』斎藤史へのインタビュー(河出書房新社 1998)


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早崎夏衞『白彩』Ⅰ (モダニズム短歌)

・まなぶたをうらがへされて待避線路に億兆の夢をわれは追ひゐし 

・みがまへてきびしきこころひねもすをみじんに刻みつひに氣死する  

・なにか魂(たま)をついばむものを怖れながらまちうける陷穽をおもふはたのし
 
・黒蝶の翅(つばさ)を透(す)かしけふもまたからまる不安日南ぼこしてゐる  

・追ひつくすきはまりもない夢をもちかくてかなしみを塗りつぶすべき 

・足もとの薫花(くんくわ)をみつめさつぱりとうしなひがたいくるしみをまもる
 
・卵殻(らんかく)を彩(いろど)り耽(ふ)けるにこにことフランス少女のうたをききつつ

・淡白(あはじろ)いあかりのもとのカレドニヤの花であるきみに觸れようとせず

・傾ける時間を逸(そ)らし考へることがらにふれるは黄薔薇のみなり 

・Esthoniaの子供がわすれたエストニアの旗が雪中(せつちゆう)でわれをとらへぬ 

・花蜜(ネクタア)に脣(くち)ふることもおそらくはなき獨木刳舟(まるきぶね)でひとのたまはふる 

・春晝(しゆんちゆう)を瓣(びら)にほはせるシネラリヤわが心波(しんぱ)さへ緋(あけ)を映(うつ)しぬ 

・照りつける日に時計店の臘石のやうな柱が光にぬれてゐる 

・碧空(そら)の觀葉植物(コリウス)がはこぶいちまいの通信にいまは生死(いきじに)もかけるわれなり

・飾壁のかげからのぞくつばらかな紅頬(べにほ)は白鬼(はくき)の氣をさらふなり 

・靑葱ヲ踏ミテ子供ガクリクリト目玉ヲムイテワレヲ視テヰシ              (クリクリ上````)                 
・望遠レンズにうつる花園からすばらしい樂典がけさ生れんとする

・噴水のあふるる水に花瓣(はなびら)はわが掌(て)は艷(にほ)ひ春ふかまりぬ 

・黒い壺を撫でれば感じ易くなり透明の蜂をいたはりもする 

・Ink Eradicator(いんくけし)で消(け)のこされしやうな人ばかりうろついてゐる公園をとほる 

・硝酸をおとせば白磁の器にて牡蠣ひりひりと死してひそけき

・季節はじめに緋葵の花ちぎれとびわが掌(て)にありて貌(かたち)を變へる 

・檢風氣球(パイロツト・バルウン)で僊(あが)りこんこんとむらさきのそらにねむりはつるべきか

・徑のかなた空ばかりのなかに椿あり朱(あけ)ぬるる玉にふれるおもかげ 

・空ざまにふくれあがつた水平線はるばるとわがこころはこびゆく 

・寝つつ手鏡(てかがみ)に庭の草ばなをうつしみて影のしづかさをいつくしみをり

・碧空(そら)にkira kiraひかる透明の蜂の翅NYK旗(き)もはためき映ゆる 

・白鳩の羽波(はなみ)ひとしきりおしながれわが頭(づ)はとみにさわやかとなりぬ

・脊椎にひそむ蟲けらをほろぼすは光のそらをかけめぐるため 

・眼のうるむ川のひかりにおもひでをのせ北方にむけてながしぬ 

・われはもうけつして溝を覗かざり空のしづくにひとみをぬらす

・蕾固い椿をちぎつてなげつけた幼時の友と詩をかたりけり 

・隅の方(かた)から紅薔薇匂ふ夜ふかくアマリヤ・ユングにわれひたりゐる

・溜息は美しい花瓣なり去来する蝶蝶のわれをいたはつてやれ 

・マーブル・ホワイトの裸像にそそぐひとすぢの静脈のごとき細い光あり

・落葉はしる渇いた冬のpreluideをわびしくつまらなく牕(まど)にきいてゐる

・白い花にたたふつめたき誇りあり孔雀蝶孤(ひと)つ延目(なのめ)に入る 

・プラットホームの光圏のなかの石疊をぐるりと旋(まは)る影法師あり 

・樹を彩るSARACEN模様の風白いバラは赤いバラとなり空へはしりぬ

・花花の孃たちはずむバスが過ぎた初夏の樹蔭(じゆいん)に白鳩を放つ 

・植物にきらきら垂れる夏の日の靑い滴を掌(て)にうけてゐる

・日のしづくにぬれつつわれはギヤロツプの足どりをもて曠野をよぎる 

・人間の息にくもりてこれがレンズは冬さびの視野をすでに知りにき



早崎夏衞『白彩』Ⅱ
早崎夏衞『白彩』Ⅲ


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岡松雄『精神窓』Ⅱ (モダニズム短歌)

・深海(しんかい)に靑い眼玉の魚と住めばフランス少女がまばたきをする 

・海底の魚族らと萬年いがみあへど碧い眼玉は憎むことなき 

・不思議にも靑い星空に眸がすめばヴアイオリンの曲がながれくるなり

・なんとなんと五つの指がのびのびと靑き植物に觸れてゐるなり 

・娘らの帯からぬけでた花や蝶が舞へば明るき春の街なり 

・つつましく天使が春の花束をわが室訪へばもう春であり 

・靑靑と樹樹が春装をこらすゆゑ猿(ましら)のごとくわれかけのぼる   

・樂の音が次第に近づき春ひらき額は朝あけの霞む野にあり 

・眉けはしく窓對(む)きゐるわが顔がもう餓鬼のやうににこにこ饒舌る

・春風を胸から頬にわが觸れれば追憶のごときやさしき旗風 

・目から耳口を浄めて神となれば花や小鳥にかこまれてゐる 

・春なれば循環線に頬さらし小猫のごとくこころゆるすもよし 

・虚空をかけめぐりゆくわがこころ花か蝶か掌(て)にひらひらうつる

・春園に小犬のごとく駈けめぐるこころは餓鬼かわれゆるすのです 

・霧ふかい野にひざまづき額をあげればひらひらと心野をかけめぐる 

・彼方の緑の丘にそびえ立つ赤き塔ほどのはれやかさもとむ 

・パラソルのやうにまるき位置占めし海濱にたわむる少女らをみる 
     



岡松雄『精神窓』Ⅰ
岡松雄 履歴その他


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岡松雄『精神窓』Ⅰ (モダニズム短歌)

・冬花のやうに冴えないわが感情(こころ)にけさカナリヤが凍(こご)え落ちにき 

・森の彼方の靑い合唱(コーラス)群鳩はきのふの夢のやうに輪を消してゆく 

・白鳩の羽波を追へる少女子の眸差(まなざし)たふとし北風(かぜ)よけがすな 

・白い通信をもたらす鳩が迷ひゐてわれを谷間につき落しけり 
  
・夢のやうに忘れられたる白楊をこがらしのなかにわれはみつむる
 
・窓そとはこがらし吹いて野良犬の遠吠えのこゑに指を折るなり 

・冬に衰えてペルシャ猫病みにき耳朶にわれ怖怖(こはごは)とハサミを入れる

・首鈴のじやれ音も空し老猫はペルシャの夢につひに死にゆく

・湖底ふかく星墜ちゆける夜なかにわが純情は魚の瞳(め)となる 

・眞夜中の湖水がじつに靑すぎれば祖先の墓掘り靑玉さがす 

・人間(ひと)住まぬ古井戸の中に靑い月が冴ゆる夜なかは白骨(ほね)探しだす 

・うす靑い光さしゐる花かげのひとの氣はひになにか怖れる 

・月光(つきかげ)の靑さに身をば浄めつつ亡母(はは)の姿を月に呼びかく 

・眞夜中を靑の光が流れゆけばこんなにもわが眸(め)は尊くあるか    

・湖水に靑い月光が冴えてあればここに住む魚が愛しくてならぬ 

・深海(しんかい)に靑い眼玉の魚と住めばフランス少女がまばたきをする 




岡松雄『精神窓』Ⅱ
岡松雄 履歴その他



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