田島とう子  (モダニズム短歌)

 

・屋上のともしき土に誰(た)が植ゑし鳳仙花のはなこぼれてやまず 

・月にさへかくれまほしくせし秋のいたきおもひはわが影となりぬ 

・逝く秋のひと夜のをごりセロ聞くと好きなる衣(きぬ)をとりいだしたり 

・ひとも無く會場もなく音律のながれにひたりてわれさへもなく 

・さぎりの鋪道のおち葉フイナーレのピニシモなほ耳にのこれる 

・つくづくと汽車にゆられてゆくこころただ秋かぜを聞かむばかりに 

・とんねるは山ひだごとにかかるらしはざまはざまを水のながるる 

・しんしんと落葉松(からまつ)ばやしはてもなしあるとしもなき逕のひとすぢ 

・細川のみなもとのみづ湧きあまりながれなづみて堪へしづもる 

・岩かげにわきてたたふる眞清水をしみらに見れば水泡(みなは)ごもれり

・生れて二日といへばみどりごの熟睡(うまい)かそけくてこの世のものならず

・兄といはれてすこしはにかむをさなごのこころは下にさぶしめるらし 

 

・おそざくらおそく咲きつつうらぐはし陽はみなぎらふ靑ぞらのもと

・植物園とおもふあたりにゐる靄の白き朝靄おほに流るる

・朝の陽はうづに射せども起きいでてなににまぎらふわれかとおもふ

・春の夜の月としもなく冴えわたりゆくへもしらず白雲ながる

・夜深き月のひかりはくまなくて槐若葉を照り透る見ゆ

・はるなれどはるかにおもふばかりにて白き花など身近くにおく

・山吹の散りてひそまるひとりゐのこの氣安さにふたたびかへり

・ひとりゐのはるのこもりゐやまぶきの白きをさせば散りやすかりけり

・めじるしの三本松をまがるとき梢蕭々とゆくかぜのあり

・たはやすくよろこぶわれかアパアトもこよひ菖蒲湯菖蒲のにほひす

・時すぎて桐のはなばかりなりあひあひてまづいふことはなにごとならむ

・つくづくとあひたきこころ汽車ながら松蟬きけば泪しながる

・いくへにもかさなる山のとほやまのあの山とおもふはたてのはろけさ

・麥熟れて穂波そろへり近づくと思ふばかりに胸ふたがりぬ

・かなしみていくたびゆきしみちならむまたしくしくにかへりくべけむ

 

 

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明石海人『白描』  (モダニズム短歌)

・大空の蒼ひとしきり澄みまさりわれは愚かしき異變をおもふ 

・蒼空の澄みきはまれる晝日なか光れ光れと玻璃戸をみがく

・蒼空のこんなにあをい倖をみんな跣足で跳びだせ跳びだせ

・掻き剥がしかきはがすなるわが空のつひにひるまぬ蒼を悲しむ

・涯もなき靑空をおほふはてもなき闇がりを彫(ゑ)りて星々の棲む 

・ひとしきり物音絶ゆる簷(のき)をめぐり向日葵を驕らす空の黝(くろず)む  

・ひたぶるに若き果肉をかがやかす赤茄子畠にやすらひがたし 

・飛びこめば靑き斜面は消え失せてま下にひろがる屋根のなき街 

・圓心の一點しろく盲(めし)ひつつ狂はむとするいのちたもてり 

無花果(いちじく)の饐(す)えて落ちたる夕まぐれかのときを我なにと言ひけむ 

・まのあたり向ひの坂を這ひあがる日あしの赤さのがれられはせぬ 

・かたくなに忿りを孕むけだものの赤みだつ眼を刎ねかへしをり   

・晝も夜も慧(さか)しくひらく耳の孔ふたつ完き不運にゐるも 

・身がはりの石くれ一つ投げおとし眞晝のうつつきりぎしを離る 

・いつの世のねむりにかよふたまゆらまひるしづかに雷雲崩る 

・あらぬ世に生れあはせて今日をみる砌(みぎり)の石は雨にそぼてり

・天國も地獄も見えぬ日のひかり顱頂をぬらして水よりも蒼し 

・われの眼のつひに見るなき世はありて晝のもなかを白萩の散る

・かぎりなき命と聞けばあなかしこ靈魂てふに化けむはいつぞ 

・失せし眼にひらく夜明の夢を刷き千草の文(あや)を雨あしの往く 

・シルレア紀の地層は杳(とほ)きそのかみを海の蠍(さそり)の我も棲みけむ 

コロンブスがアメリカを見たのはこんな日か掌をうつ蒼い太陽  

・引力にゆがむ光の理論など眞赤なうそなる地の上に住めり

・この空にいかなる太陽のかがやかばわが眼にひらく花々ならむ 

・不運にも置去られつつ眼のたまに鍼(はり)などたてて明し暮すか 

・かたつむりあとを絶ちたり篁の午前十時のひかりは縞に 

・わが指の頂にきて金花蟲(たまむし)のけはひはやがて羽根ひらきたり 

・昨夜の雨の土のゆるみを萌えいでて犯すなき靑芽の貪婪は光る 

・心音のしましおこたる日のまひるうつつに花は散りまがひつつ 

・みなそこに小魚は疾し全身の棘ことごとく拔け去る暫し

・水底(みなそこ)に木洩れ日とほるしづけさを何の邪心かとめどもあらぬ 

・まのあたり山蚕(やまこ)の腹を透かしつつあるひは古き謀叛(むほん)をおもふ 

 

 

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平田松堂『木苺』  (モダニズム短歌)

 

 

・山の下へ下へ下へとなびかふも靑海の上の一面の茅 

・斷層の幾番目にか殘る陽あたりその日當りの直きにうごけり 

・道のべのしらやま菊の白花は往けども往けどもこの花咲けり 

・夕しづの湖には動く雲のありて島にはわたるあざやかに見ゆ

・水際の夕木(ゆふぎ)をもるゝ陽(ひ)はしのび湖にたもてる光にさやる 

・ふくらみて湖を渉りし白雲のあまたはポンモシリーにま影を落す (湖中三島の一つ)

・雨の後上りくるらし山腹にちぎれつゞく霧の光り動きつ

・湧きあがる霧の絶えまを靑濡れて山は向ふにつゞきたるかも  

・木苺の實を捥(も)ぎ食べつ段々に減(へ)りくる枝を強く引寄せ 

・木苺の引寄す枝のそりかえりこゝだ實段々に高みにあるも

・木苺の瑪瑙(めなう)の實こゝだ次々と脊延び引きゐる頭(づ)の上(へ)に來たる 

・小雨深くあたり煙(けぶ)れば木苺をつたひ落つる雫忙しき

・斷崖がはろか海先暗くしつ潮もそこより急に蔭りくる 

・遠潮の最中散亂(さなかちらば)る白浪の覆(かへ)り際立(きはだ)ち風光るかも

・波はこゝに崩れて泡のせめぎあひ押されつづくも白き白き岩間(いはま) 

・打ち上り磯の窪處(くぼど)のどれにも入りどれにも動く潮をみしかも

・とのぐもりみはてぬ海は遠々に山ゆき山ゆき地峽をつくる

・草山の空斷(た)つ線に近づきてさはらでゆきし雲はさぶしき 

・このはしる山のうねりのはろけくは一線一線草山かぎる

・日を一日暮春の山をめぐりきて男は男と湯に入りにけり

・春の田の曇り落ちたるとのぐもり四角四角の菜の花さき繼ぐ 

・いつぱいにつけた雫の水の珠ぴかりと冬木のひかり震へる

・裸木のいつぱいさやる雨しづくどれかゞ落ちるそこでもおちる 

・この枝を雨はつたはりしづくすと大きさ定まりぴかりと光る

・落ちさうな落ちさうもない雨しづく照り明りしてひつそりしすぎる 

・枝先きに黄いろい靑い何に色といへない春芽(しゆんめ)がもう着いてゐし

・靑丘の海に斜走しゐるなれど何と云ふなごやか目が海にゆく 

・遠つ海に靑丘くだり白の牛のひとつあそべり黒の斑もちて

・鷗鳥いちどに立てば片々と白くちぎれて尚わかれ往かず

・浮き浮きて鷗よぎらふ海の上に一面の陽の浪きざみ寄る

・山の間の湖にしづめる藍靑(らんじやう)の寒さかゞよへり草木の映つる 

・この連絡船(ふね)のうすくらがりにレール敷かれ後すざりして貨物汽車入りし

・つまと雄と波の寄ればか流れ木に傾きのりてかたぶく鷗

・駒ケ嶽はだら陽のさし褐色に照りきる見れば力は強し

・天雲の降りてしげかる嶽をひろみ陽は照り亂れいよゝ忙しき 

・天雲の來ては去りゆく停(とどま)らぬ雲はさびしも山ひとり高き 

・駒ケ巖まさしくは頂に天とがり急に陷没せり火を吐きし跡の 

・釧路野の葦のさやぎの風きけば泥炭地層をはしる悲しさ

・雲の影落ちてさびしき白樺は幹しらじらと水湖映つる 

・山の間にたゝへ深める靑淀の湖にあらはれ白雲消えぬ

・こゝにして一徑(ひとみち)長しあきらけし霧の中靑く沼を湛ふも 

・半輪の月はかゝりてむら山の襞(ひだ)照らみ白雪氷らく光れり

・明け晴るゝ空限りなき雲の海のいまだもゆるがず山横たへり 

・ほととぎす水上げ來たり一花一花確しか花瓣の輪廓にかへる      (山草ほととぎす)

・ほととぎす頭上に開き次々に下部(しもべ)の花は咲く力なし 

・相模伊豆雲閉ざさへる下にして幾山くらく脈(なみ)疊る見つ 

・この金魚の「木の葉落し」の片々と水中たしかに直下し來る 

・この金魚の氣狂ひ追ふはあはれなれど雌か雄かの何れ追へるにかあらむ  

・雨しとり山の傾斜(なぞへ)の靑草のしみじみ濡れて静かなるかも 

・向つ尾の傾斜(なぞへ)の圓(まろ)み靑草に雨は静かに降りつ明るき

・峽を上る霧あし迅し山脈(やまなみ)の眞靑(まあを)襞々つぎつぎと越ゆ 

・梅雨(つゆ)雲の陰り重たく動かねば暗さは峽にしみじみ深し 

 

 

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田中火紗子『土塊』Ⅰ (モダニズム短歌)

 

・さびしく 水線から空に すでに歴史へくらました思慕

・紅(あか)く 晝顔みたいにおろかに 何が これほど纏綿と つながるのかしら 

・潮が鳴り 潮どきの あでやかすぎる自負のまんまで 

さるすべりが咲いた、溫度たかく 濃く 赤く 

・とめどなくむらがり、炎天 おいらん草が咲いてるけども

・海が鈍い音(ね)だ まつたく ましてこころよく情死するとしても 

・夾竹桃の紅(べに)のさかりに 次いで 約束の死をこばむがいい

・低聲で まつすぐで うつろで このあかるい花の咲く晩だ 

・みぞれて ひとの瞳が濃くせつなく そのさもしさのはやり唄 

・灯がつけつぱなしな 哀傷のむかふで降る みぞれ少(すこ)し  

・月あかりで化粧したかほに なんの 月が發光體ぢやないんだ

・燭をつかはなくちや昏い もいちど 雪がやつてくる 肩に   

・あぢきなく愛慾の生(よ)の けふ 野にかぜと雪との跡がつき 

・おそろしく道化が 雨と霜とで ち切れつぱなしの春の前夜 

・蒔いた畠だ ほんの みぢかい時期のあひだ月がそめるよ

・しきりと月が降るので それつきり 季節のことは考へてやしない

・むらむらの赤で こごんで 冬だなとかんがへる舞踊 

・戀慕する 風でなし 雪でなし 冬はたださへ赤赤と降つてる 

・まだら雪のころ ちちと ははと すこやかに生きるための火焰だ 

・まだらゆき踏んで 刻限の 灯がつくときを考へる さむさ  

・びつしより斑雪の たひらな風景へ いつぽんのはだか火をもやす

・まだら雪の印象につかれ かぜとともに 太陽がまんなかで照らす  

・肩掛にくるまつて あすこで 寒い光源がどこだかきいてみるんだ

・とんがつた富士を 春だけの さまざまな悔で假想するがいい

 

 

 

 田中火紗子『土塊』Ⅱ

 

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高須茂  (モダニズム短歌)

 

・底知れぬ深さの中にかかりゐる地球を思へり天幕の中に

・ラテルネにルツクサツクが映(うつ)りをりわがピツケルを磨き了へし時に      (ラテルネ=手提げランプ) 

・うつさうと茂れる大樹(たいじゆ)の上にきて月の光はまつさをとなる 

・極地天幕張りてわれらにこともなし風おだやかに暮るる夕暮 

・ラヴイネンツークを登る危さにゐて雪煙のなびく頂稜をふりあふぎみつ

・太陽は岩壁(かべ)の厚みの向ふとなり俄かに寒し落石の音

・霧の中ゆ現はるる岩はみな濡れてをり濡れたる岩はいづかしきかな  

・岩雪崩霧のさ中にこだましつつ次第に遠し夜は明けむとす

・ザイルを静かにたぐりつつ大空の逆光に立つ我を意識す

・ビレイングピンの全く見当らぬスラブなり次第に空間を意識し始む 

・ましぐらに岩をのりこえてゆく石の音二百米の空間を落ちゆくならむ

・夜更けてあらし静もる池の面にひとつ影おとす星もあるべし 

・奥穂高の夕空かぎる頂稜になほくろぐろと人のゐる見ゆ

・睡り足りておのづとさめぬすがすがと天幕に射す水の反射(かげろふ) 

・ザイルを静かにたぐりつゝ大空の逆光に立つ我を意識す

・さやかなる月のぼるときいつせいにそよぐ木立の音のきこゆる 

ザメンホフのことを我思ふポオランドを祖国としたるその眼科医を 

・世界語をつくらむとせしザメンホフの祖国いくたびか兵火に潰ゆ 

・靑草の斜面たちまちたちきれて眼下に深き谷あらはれぬ (車中)  

・夕近き谷の底ひにきらめきてそこばくの水の落ちゆくが見ゆ 

・二年前に讀める書物にかかはりあるアビシニアの町の名を思ひ出ぬ 

・大火といふ漢名をもつ星が天の一方に沈みつつをり 

・數萬の書物の燃ゆるありさまをうつつの如く思ふ時あり 

 

 

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美木行雄 Ⅰ  (モダニズム短歌)

 

 ・セロリーの齒(は)の泌む別離(わかれ)といへば、いつまで儚(はかな)い、白い鷗の窓かしら。

 

 ・歐州メールV汽船は、もう十日地圖(とうかちづ)のうへで、税關(ぜいくわん)の旗、夕(ゆうべ)の雲など・・・・・・また自殺だと騒いでゐる。

 

・スーヴニール、スーヴニールと港(みなと)の船のいふやうで 鰈(かれひ)ら砂(すな)に 雜魚(ざこ)ら藻に〈世(よ)は太平(たいへい)の如(ごと)くに候〉

 

・海を消えた黒い船──海に浮かぶ白い船。あれから半世紀 實にさまざまの自殺があつた 

 

 ・高邁(こうまい)な精神(せいしん)があへなく散る サクラの花は浄土(じやうど)のうへ しかも魚(さかな)は白い眼

 

 ・外人(ぐわいじん)の生毛(うぶげ)に光(ひか)る日本(にほん)の風(かぜ) 雀(すずめ)を狙(ねら)ふ空氣銃 ブリテン號の銅鑼(ドラ)がなる

 

 ・胃(ゐ)では魚が嚼(こな)れてゐる 映畫(えいぐわ)をみて街(まち)を歩(ある)きながら頻(しきり)に貯金帳(ちよきんちよう)が氣になりだす

 

 ・水くぐるペンギン鳥(てう)は喜び居(を)るに〈働かうにも仕事がない〉と無産派議員はいふのであつた

 

 ・女は意味の解(と)けぬ電文(でんぶん)だつた。河童(かつぱ)の顔に冷めたい雨(あめ)があたる       (河童=フラッパー・ガール)

 

 ・妬心(としん)もえて 白い死灰(しかい)の雲となるまで 三萬三千三百三十三日 尼さんの踵(あし)の穢(きたな)いこと

 

 ・まして男よ 霜夜(しもよ)は骨にしむとも 木(き)と冴(さ)えて 泣くでない

 

 ・埠頭(ふとう)まで落葉(おちば)をちらし 落葉無殘。泣かない顔が小鳥を射(う)つ 

 

 ・時計臺が鋪道(ほどう)へ銀行の窓へ翳を屈折(を)る 毒殺魔(どくさつま)の寫真は刑事の手に落ちた 氣象臺あたり鳩(はと)の群(むれ)

 

・時計臺の白い文字盤を鳩が過(す)ぎる。サラリーマンが郊外の雪路を降(お)りてゐる

 

・高層建築の鐵筋に貼(は)りつく 碧(あを)い 廣重の空 爪(つめ)ほどのひるの月 かかる (廣重上・・)

 

 ・空に描かれる鐵筋はNYXZと讀まれる 腦膜の 黒い線條を疑はず 街の 橋をわたる

 

・夜は、街のねおんと戀する男女をうつす隅田川の底に くろう重ねて 木の影しづむ        (ねおん上・・・) 

 

・かあてんに 白い月のささら波 あがるとき、肺くろき處女(をとめ)の息絶(いきた)える 

 

・新聞社の屋上(をくじよう)に舞ひおりる鳩ら 旗行列をする街の透視圖 その鳥國のしろい道 水平線に消える          

 

・神學校のサクラをちらす日本の雀たち 外人とパイプ 海港(みなと)の上の白い雲

 

・時計臺の白い雲 白い柩を石でうつ。うなだれてゐるから 骨透くほどにさみしふなる

 

・うぐいす啼いて 朝あける あらはれて消える雲ら 蟻は眼をあげて日和を観測(み)る

 

・ダンサーは手鏡(ハンドグラス)を窺いてゐた 地下室では 革命家がせつせと ぴすとるを磨いてゐた 

 

・馬占山 高粱の野に虫と潜み 地球の重心傾いてゐる

 

 

美木行雄 Ⅱ

                      

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早野臺氣(二郎)『海への會話』Ⅰ (モダニズム短歌)

 
・夏なれば朝の砂濱にましかくにガラスたておく拔けとほりゆけ

・覗きをる日覆(ひおひ)の裂け目へうみのなみの横たひらかなみどりがながる

・KIRA KIRAと硝子かついで泳ぐなるせなかのうみは午后なり波あり

・海にむけ飛ばされおちし日覆ありぱつとひろがる赤と白との潮(しほ)

・風船に鼻あててゐる草のなか秋ふかしこころも破裂へちかし

・しよんぼりと霧に飢ゑをるえんとつのまるみなり日暮れはこころも猫なり

・けぶりなきえんとつのうへ天國の會社はやすみと雲ながらふる

・しら雲へ眼のゆくこころもあいすべしたのしい土曜を箱に腰かけ

・うみへ向ふこころに日あたる坂があり鯛も暢氣(のんき)に山にハネをり

・薔薇墻(ばらがき)からわれの半身いだすときえんとつにちかく月のぼりてあり

・並木若葉のまつさをなおくへ追ひたれば象のからだの輪廓のこる

・山したの竹藪はわれの少年をもいちどふわりと風に縦(たて)にす

・谷のなかで五月の楓はBAVARIAのあをいえんぴつの隣りへたふる

・スリイ・キヤツスルの丸鑵靑紙(まるくわんあをがみ)みてたのしこころいつしか日本にはあらぬ

・BOUTONNIERE(ブトニエエル)に薔薇植ゑこめば胸のうへ世界のえんとつをかんじくるなり

・なんとこの素敵な日よりの薔薇墻(ばらがき)へピストルおとし手のやりばなき

・スカアルをはしらすあたり鯛鱧(たひはも)のうみの家具ならびいつもたのしき

・鐵の手すりの魅力はうつくしい白なればあなたと距離ありうみのうへなり

・しだり櫻の尖にはさくらさきおもり芝さへ裂かるつちに針生え

・谷のあをい空氣でふらつく木のまへにフランスよりこしカメラマンがあり

・樹からこし蝸牛をゆびにははせをればにじるじかんが谷のふかさになる

・まつさをな楓をしたへさしとほるひかりの妹ネムの花あり

・樹さへ草さへともだちなれば兎にも旅行以來の時間表を貸す

・かたはらの樹のなかに樂器を隠しつつあなたにあげるといふは恥(やさ)しき

キートンがひよつとでてきて愛してる映寫機のなかへかくれいりたし

・素裸(すはだか)で桃さく空氣にふれてゆけ雲なんてさかんに足もとながる

・棕櫚(しゆろ)の木に柔らかく天使のかげありて樂器ヴアイオリンじかんにながる

・ペエヴメントに歩をはこぶ靴の黒がみえ白みえ黒がみえうごくあひるみえ

・街路樹は枝なまじろく尖(さき)濡らしそらなる肉へひかりしたたり

・美しいリボンをこころに結びをれば萩のはな靡(なび)く關(かかは)りのあり

・やまがだんだん日暮れはあつまりくるゆゑに靑さにおされて塔ぞひくまる

・五重の塔をちかくの萩がうづめ去ればはなふかくなりぐるりに手をだす

・まつさをな風船も肩からはなれゐてガルボのかほにみなとのひるあり

・出船カラノビタルテエプガテヲハナレひらひらナビクトサビシクナルデス

・えんとつの尖(さき)はえんぴつのシンなれば海に鯛ちぢみひる零時なり

・靑じろくふるるえんとつ月よなれば猫の永遠なやはらかさあり 

 

 

早野臺氣の研究者 藤本朋世さんによるサイト

タンキスト早野臺氣の軌跡

 藤本朋世さん自身のサイト

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