オペラの部
饒正太郎
チエツコスロバキヤの鵞鳥よ
料理屋のギターよ
けふは床屋の結婚式
葡萄の實を投げたまへ
☆
サン・ジユアンの祭の日
君は茶色の自轉車をこはしたね
戰爭はまもなくつまらなくなるよ
太陽は馬丁のそばで
薔薇のやうにピカピカするし
ボオンピイ河岸では
アンダルシヤの娘が齒を磨き
ミリオネエルはチンパンヂイの夢をみる
マーク紙幣に注意したまへ
旅人はやせたロバに乗りたいと云ふ
初戀の家庭敎師には
麥藁帽子がよく似合ふ
馬車のひびきと洗濯屋の音
☆
ヴイタミンと云ふ
牡馬が彫刻家の麥畑を荒したと云ふ
音樂的な話方が流行するだらう
☆
朝食の鐘はなりひびき
僕等は水夫と話をする
君のジヤズ・ソングは空氣銃に似てゐるね
スワンは明日お休みです
花園で貧血を起こしたレトリツクの詩人よ
若き農夫は薔薇と眠る
蜜蜂と唄聲と
『20世紀』第3号 昭和10年(1935年)4月