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小玉朝子『黄薔薇』Ⅱ (モダニズム短歌)

・くらき空に海蛇(ヒドラ)うねれりひとりごゝろ清しみて窓をとざしけるかも・掌(て)をあはせ千萬年の星々の地に下りるさまをみつめつゝ居り ・行きずりの人のふりむく目を追ひて音もなき街の花火を見たり・火花ひらき散りて消えゆく瞬間の眸(め)のさびしさは…

津軽照子『秋・現実』Ⅱ (モダニズム短歌)

・まどに赤い花さいて 芯に刺客の眼をひそめる 〈月曜〉・しろい女體の しろい猫の媚 カンヷスもしろいままで 〈火曜〉・夕やけ鏡まで染めて オペラ開場の時間が迫る 〈金曜〉・涅槃の繪のけだものか 父の死床 最後といふにただ泣いてゐた・あをぐろい星の夜…

津軽照子『秋・現実』Ⅰ (モダニズム短歌)

・ひるの月かげ 嫁(ゆ)く人の 見られねばならぬかほを粧へ ・かけすすりぬけた林の隙きま しろいあかりの おもひでを見た・茨の實いかに色づいても枯野の 孤獨(ひとり)のつみが ゆるされぬか・いつぴきの栗鼠がすむ枯野原 地軸さわさわしら雲をくり・郵便配…

小笠原文夫『交響』Ⅰ (モダニズム短歌)

・並びゆく少女がともの足揃ひ一様になびくすかあとの襞 ・嬬(つま)さびて今はあらめとおもひつつ少女すがたは眼に浮ぶもの ・いまにして忘れがたかるひとのありわすれてしまへと首うちふりつ ・ギリシヤ型の顔を少女が拭きたればへリオトロオプが清しく香へ…

石川信雄『シネマ』Ⅰ (モダニズム短歌)

・春庭(はるには)は白や黄の花のまつさかりわが家(いへ)はもはやうしろに見えぬ ・白鳥の子をかばふため家鴨等に棒ふりあげるこどもでありき ・白薔薇(しろばら)のをとめとわれはあを空にきえ去る苑(その)の徑(みち)の上なり ・すみれさへ摘(つ)まうとしなか…

斎藤史『魚歌』Ⅰ (モダニズム短歌)

・白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう ・時劫(とき)さへも人を忘れる世なれどもわれは街街に花まいてゆく・くろんぼのあの友達も春となり掌(て)を桃色にみがいてかざす ・アクロバテイクの踊り子たちは水の中で白い蛭になる夢ばか…

早崎夏衛『白彩』Ⅰ (モダニズム短歌)

・まなぶたをうらがへされて待避線路に億兆の夢をわれは追ひゐし ・みがまへてきびしきこころひねもすをみじんに刻みつひに氣死する ・なにか魂(たま)をついばむものを怖れながらまちうける陷穽をおもふはたのし ・黒蝶の翅(つばさ)を透(す)かしけふもまたか…

岡松雄『精神窓』Ⅱ (モダニズム短歌)

・深海(しんかい)に靑い眼玉の魚と住めばフランス少女がまばたきをする ・海底の魚族らと萬年いがみあへど碧い眼玉は憎むことなき ・不思議にも靑い星空に眸がすめばヴアイオリンの曲がながれくるなり・なんとなんと五つの指がのびのびと靑き植物に觸れてゐ…

岡松雄『精神窓』Ⅰ (モダニズム短歌)

・冬花のやうに冴えないわが感情(こころ)にけさカナリヤが凍(こご)え落ちにき ・森の彼方の靑い合唱(コーラス)群鳩はきのふの夢のやうに輪を消してゆく ・白鳩の羽波を追へる少女子の眸差(まなざし)たふとし北風(かぜ)よけがすな ・白い通信をもたらす鳩が迷…

小玉朝子『黄薔薇』Ⅰ (モダニズム短歌)

・いちまいのガラスの魚(さかな)泳ぎゐて透明體となりし海なり・幾百の川ながれ入り流れ入り魚(いを)のたまごを光らせてゐる・砂丘に濱ひるがほの花咲きて雲は海よりひくゝ沈めり・潮騒は胸に鳴りやまず砂の丘驅け下りてみれどなぐさまぬかな・鮫の眼にまた…

松本良三『飛行毛氈』Ⅲ (モダニズム短歌)

・白薔薇の花束ほどのうつくしさ殘して死んだひと思ひ出す・シルクハツトをかむれる天使ら舞ひ降(を)りるわれは海邊に三月も暮らす・魚族らにとりまかれゐる海底の賑やかさなれば野に忘れゐし ・明け方のうす霧のなかにねむりゐる花花の眼はわれひらきやる・…

松本良三『飛行毛氈』Ⅱ (モダニズム短歌)

・月影に喰はれる夢におびえつつひもじくて猫は眠れぬなり ・蒲公英(たんぽぽ)の花花のなかにおちこぼれ消えたいのちは星かわからぬ ・噴水のなかの世界よりながれくる春になる音(ね)が今日も聞える ・わがねむり夢にとられてゆく頃は月夜の空に虹かかりをれ…

松本良三『飛行毛氈』Ⅰ (モダニズム短歌)

松本良三『飛行毛氈』 栗田書店〈日本歌人叢書 第一篇〉 1935(昭10年) 良三没後に刊行された歌集で、編集およびタイトルは旧制中学以来の友人石川信雄(歌集『シネマ』)によるもの。タイトルは良三の中近東好きに因んだもののよう。飛行毛氈とは空飛ぶ絨毯の…