2018-05-25から1日間の記事一覧
雪 澤木隆子 いたく初雪の積つた晩消えがてのピアニツシモは鍵にふるへて古風な情緒を呼び 冷えてくる體内(からだ)に 何かあはれなよろこびの如きもの漲り 白い その雪の葩(はなびら)に埋れて こんこんと眠つてしまつた。 『Rom』(紅玉堂 1931)より 澤木隆子…
額のばら 澤木隆子 何も言はずに莨を吸ひませう、部屋中が煙でいつぱいになつたら私も窓を開けて出て行きます。 出て行く私を憐れむんぢやありませんよ、 雲つた額には恒に薔薇を挿して居ります 『Rom』(紅玉堂 1931)より 澤木隆子 記憶澤木隆子 心澤木隆子 …
極光 乾直惠 あなたは三角洲の葦間から、流暢な各國語でぼくに喋りかける。 ぼくはいちいちそれを懸命に、速記する、翻譯する。──アノ橋ノ袂二、アノ橋ノアチラガワノ袂ニハ……──誰カガムカフ岸二、誰モムカフ岸二ハ…… 長い鐵橋が半分夕陽の中へ折れ込んでゐ…