極光  乾直恵  (詩ランダム)

極光 乾直惠 あなたは三角洲の葦間から、流暢な各國語でぼくに喋りかける。 ぼくはいちいちそれを懸命に、速記する、翻譯する。──アノ橋ノ袂二、アノ橋ノアチラガワノ袂ニハ……──誰カガムカフ岸二、誰モムカフ岸二ハ…… 長い鐵橋が半分夕陽の中へ折れ込んでゐ…

海と女体  恩地孝四郎  (詩ランダム)

海と女體 恩地孝四郎 光は 激しく海をおしつけ海は いよいよ靑くひとびとはあけひろげられた遊びに原始の魂を蘇生する波をくぐり 波をくぐりさらに熱砂に身を放つ一群の生物 ⚫ 新らしい膚は烈しい太陽にをののく皮を射る赤外線足にまつはるは さざなみ ニー…

形なきもの  恩地孝四郎  (詩ランダム)

形なきもの 恩地孝四郎 朝ふり敷いた雪に散る光室のうちはまだ冷えびえとしてゐるにどこか幸福なものが心に芽ぐんでゐる瓶のヒアシンスに凝つてゐる蕾、ひえびえと冷氣のしみる肩に私は飢を感じながら、何か幸福なものを身にする朝もの捉へるものは形なきも…

画布に塗られた陰について 酒井正平 (詩ランダム)

畫布に塗られた陰について 酒井正平 繪を探すには月の無い窓を必要とする様に裝ほへる鏡の中の碧さにかたつむりの舌を意識する 畫くのは何時も人の姿 歩くのは何時もさがない美しさから 寢室に招(よ)ばれたさゝやかな饗宴の中から綠色の落雁の扉を開くと 猫…

天文  酒井正平  (詩ランダム)

天文 酒井正平 小鳥の花は咲かない事になつてゐる。そして無數の天使の叱言が足跡を付ける。 窓に盗んだ、それ故その叱言は衣裳をきてゐた、私は昔からそれを認めて居た、以前私は塋の中にゐた、つゞめられた聲を立てゝも彼等は笑はなかつた、失笑は私が覺え…

夢  小方又星  (詩ランダム)

夢 小方又星 かの女は、銀の涙をはらはらと流した。 わたしは かの女の名を知らない。姿も顔も憶えてゐない。ただ、いまも何處かで あの銀の涙だけが美しく光つてゐる ! わたしは見た、處女の眸からはらはらと星のやうな涙が夜の闇に散つたのを。あゝ 不思議…

菊  乾直恵  (詩ランダム)

菊 乾直惠 彼女が久しく寢てゐた部屋を閉め切つた。僅かに障子に穴を開け、そこから導管を差し込んだ。私は消毒器に火を點じてから戸外に出た。 私は沼の邊を歩き出した。野霧が籠めてゐた。月──月の中の蒼白い彼女の顔。彼女は絕えず痙攣する口腔から、ぺつ…

鮠  乾直恵  (詩ランダム)

鮠 乾直惠 透明體の秋氣には何一つ沈殿してゐなかつた。私は収穫後の葡萄畑に枯枝を剪んだ。木鋏の音が空に滲透した。枝の隆起した癌腫狀のところを折るごとに、白蠟性の幼蟲が蠕動してゐた。 夕暮が私に促した。 私は蟲を鈎に刺し、絲を裏の小川に垂れた。…

失踪するエロイカ 伊東昌子  (詩ランダム)

失踪(しつそう)するエロイカ 伊東昌子 日暮れてモスリンが泡立ち 草の葉の胸に人魚がする人見知りは 聴き手たちの扇子をさへ 柔げはしなく ロシアの風のやうに 帽子をとるシンデレラの目や耳は あんまり綴りを間違へると云つては困つた 詩ランダム

白い Cabin  饒正太郎  (詩ランダム)

白い Cabin 饒正太郎 朝の海岸は梔子(くちなし)の香でいつぱいだつた。私は向日葵の咲いてゐる丘で海を呼吸した。 ああ、透徹(すきとお)つた幻想の中で白い花瓣(はなびら)が穹中(きゆうちゆう)へ陥落する。 私の記憶の航海は一枚の悲しいハンカチーフに戀を…

夜のイニシヤル  山中富美子  (詩ランダム)

夜のイニシヤル 山中富美子 檳榔樹の月の金色、かれらの蘇生よ、ほんとに奇妙な結果だつた。風は砂から生れて行つた。海のコムパクトの冷たい呼吸、十字架に接吻して濳楚な夜明けの星が石に變る時、泡の肉體が空に浮んで體溫のしやかな幻をかく。檳榔樹のま…

航海術  酒井正平  (詩ランダム)

航海術 酒井正平 ランタン病患者の告発した所によると東部の風はもうこちらには吹かない。西部にある牧野はすべて任せてもよい。 この陸地不透明な潤散が犯しておる。それはひとつのコイル線によりあなたを海の部分にした。 『小さい時間:酒井正平遺稿集』(1…

窓  酒井正平  (詩ランダム)

窓 酒井正平 ~テニスなどして海のそばから帰つてくると水色のシヤ ツがぬれてゐる アマチユアだといふ昔の友が小娘た ちにおしへてゐる ~「ボキヤブラリイ」の地方で リボンをむすんだ蝶々 が死んでゐる 「アレゴリイ」の村で 画家は村夫子 とあそんだ ~アン…

落下する物質  水町百窓  (詩ランダム)

落下する物質 水町百窓 裝飾物に落ちかゝる夜、あゝ、涯しないこの下降を支へて僕が居る。窓から忍び込む夜、夜の奥の一つの形態、カーテンを捲き上げると、地球が僕の目の中へ月をはめ込む。僕は僕の内側に海鳴りを感ずる、肉體の中の月の温度、輕快なるミ…

ガラスの肖像  中村千尾  (詩ランダム)

ガラスの肖像 中村千尾サウザンクロスの下で生れた日を數へるように小さな幸福が輝いてゐる私の頰の冷たい夜 水晶のブランケツトの上に落ちた一滴の涙のように透明な日日を愛し一つの新しい希望を記錄する 二月のシベリウスよ 星の音を聞くためにこの靑銅の…

Echo's Post-mark 乾直恵  (詩ランダム)

Echo's Post-mark 乾直惠 銀鼠色の手袋が、ぼくに强ひる。──もつとランプの芯をお攪き立て ! と。 光にみちたその芝園で、ぼくは幾枚もレタア・ペイパアを書きほぐす。 あなたはぼくの脚もとから、ほろほろ崩(こぼ)れる、砂丘のやうに。 そして、花が咲いて…

長靴  竹村英郎  (稲垣足穂の周辺)

足穂の周辺の周辺。 長靴 竹村英郎 十一月の風は軒並みの旗をゆすつてゐる。薄雲を透す鈍い光をうけて人々は本棚のやうに默つてゐる。わたしは聖ヂエームズ街のと或家の石段の下に立ちひと度は首すぢをうつ蔦におびえ煙突の影よりも長いウエリントン公の柩を…

思出  山中富美子  (詩ランダム)

思出 山中富美子 綠のニグロが石段を下りる時、オリーヴは空の色に茂つてゐる、そこに伊太利の日光がさす。一片の明るい雲、時々、天使が浴みする熱帯地の雨はこはれた石柱にかゝつた。 海で死んで砂をくゞつてきた天然樹の足、若い蛇よ。月の海岸には泡が佇…

夜の花  山中富美子  (詩ランダム)

夜の花 山中富美子 左右の端麗な決定と悲哀とにかかはらず、かたはらまでおとづれた夜半は最早豫言を生命としない おおこの室内、すでに意味の無い輝き、沈んだガラスの神話、或ひは冷酷な無言が、死の床に時計の夢を、又はかたはな物語を傳へた。深夜のすぐ…

海岸線  山中富美子  (詩ランダム)

海岸線 山中富美子 雲のプロフイルは花かげにかくれた。手布が落ちた。誰が空の扉をあけたのか。 路をまがつて行くと石階のあるアトリヱだ。いつもの方角へかたむいて、扉までとゞいた日影が、のびて行く所は昻奮する氣候を吐きだす白い海岸だ。そこはすつか…

朝のトレエニング 中村千尾  (詩ランダム)

朝のトレエニング 中村千尾 ガラス窓に卵形の雲が浮んでゐるそれは白いお皿の上のパンよりも美しいスプンの中でころがしてゐるとやがてクリイムの様に溶けてしまつた おしやれなチユウリツプの鉢は赤いマンキイハツトをかぶり風に吹かれながらコロラチユラで…

睡れる幸福  乾直恵  (詩ランダム)

睡れる幸福 乾直惠 黎明(あけがた)、あなたはきつと、機織音でぼくの夢を搖ぶる。あなたの震はす指先に、露に濡れそぼつたスワン・リヴァ・デイジイが咲いてゐる。 筬(おさ)の中で、幻の星條が消えたり燈つたりする。 ぼくは渺かに、織りかけの薄絹(うすもの…

神の白鳥  乾直恵  (詩ランダム)

神の白鳥 乾直惠 神さまが、膝でスワンを慈しむ。御手にふれたこの拔け羽毛(げ) ! ぼくは冷たい歌を思ひ出す、塒をさがす小鳥のやうに。 ぼくはあなたの毛皮のなかへ走りこむ、ストーヴに凍(こご)えた兩手を翳すために。 ぼくはあなたのスエーター・ポケツト…

シユミイズ  荘原照子  (詩ランダム)

シユミイズ 荘原照子 シユミイズは疲れてゐる。うす黄ろい花粉にまみれて。 白絹のシユミイズ。シユミイズはぐつたりと、靑い壁紙にもたれてゐる。 シユミイズ。洗つても消えない、汚點をもつ。 シユミイズ。雪野(せつや)の、シユミイズ。 『マルスの薔薇 : …

魚骨祭  荘原照子  (詩ランダム)

魚骨祭 莊原照子 夕べ 假死した木立のうへで 侘しい手風琴を鳴らしてゐる靑い仔鴉よ 充たされないおまへの食欲よ けふ わたしは一さじの果汁を啜った昔 搖りかごの谷間にさめたそこですみれの花をたばねた而も今 此の翳ふかき白磁の食器には 膓結核 唯するど…

詩ランダム

伊東昌子 失踪するエロイカ 乾直恵 朝は白い掌を 乾直恵 Echo's Post-mark 乾直恵 神の白鳥 乾直恵 菊 乾直恵 極光 乾直恵 睡れる幸福 乾直恵 鮠 乾直恵 光の氷花 乾直恵 村 井上多喜三郎 窓 江間章子 日傘 江間章子 舞踏靴 小方又星 夢 折戸彫夫 急行列車 …

舞踏靴  江間章子  (詩ランダム)

舞踏靴 江間章子 白い帆前船の壁繪。ヴエニスの商人達が乗り込む。かつて、彼等は砂丘を越えた。波の白い炎に追はれて。 靑い提灯に火を點したあと私たちはそつと去るだらう暗闇の庭に沿つて。夜の扇子の上に月の出があつた。 風に吹かれて、けふ、私は赤い…

睡眠  山中富美子  (詩ランダム)

睡眠 山中富美子 白い叢に隠れて、眠る天の腕が私を抱きにくる。私の足が地を離れる。毛布が脱げる。身体が雲の外に出る。翼が空を切る、私は海に飛びこむ。波は私を呑み、その口から一個の石を吐き出す。寢臺の中でそれが薔薇色の肉體に變る間、天の地圖の…

苑の周圍   饒 正太郎  (詩ランダム)

苑の周圍 饒 正太郎 あらゆる草木の上に《春の聲》が弱い光の中で激しい喜悦、弦樂のアリア。 アトリエの扉が花の様に開く。ローズ・ド・コバルトの丘、續いてジヨーヌ・シトロンの丘。 小鳥は樹木の間から靜謐の苑を眺める。この無智の魚達。 神秘の森に獨…

金魚 竹村英郎  (稲垣足穂の周辺)

足穂の周辺の周辺というべきか。竹中郁の周辺の詩人のようだが。 金魚 竹村英郎 ──お孃さん、なぜあなたは姿見に布をかけないのです。お孃さんは二階の窓ぎはにぐつたりと籐椅子にもたれて金魚鉢にさすたそがれの陽かげをたのしんでゐなさる。(あら、この金…