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斎藤史『魚歌』Ⅰ (モダニズム短歌)

・白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう 

・時劫(とき)さへも人を忘れる世なれどもわれは街街に花まいてゆく

・くろんぼのあの友達も春となり掌(て)を桃色にみがいてかざす 

・アクロバテイクの踊り子たちは水の中で白い蛭になる夢ばかり見き 

・飾られるシヨウ・ウインドウの花花はどうせ消えちやうパステルで描く 

・みどりの斑點がかうも滲(にじ)んで來るもはや春だと云はねばならぬ

・世界地圖の上に置きたる静脈の手われわれはみな黄色人種 

・フランスの租界は庭もかいだんも窓も小部屋もあんずのさかり 

・敷石道は春のはなびらでもういつぱいパイプオルガンが聞えるそうな 

・はとばまであんずの花が散つて來て船といふ船は白く塗られぬ 

・春はまことにはればれしくて四つ辻のお巡査(まはり)さんも笛をひびかす 

・散つて散つてとめどない杏の花の道にまぎれこまうとダンテルを着る

・鳩笛をそれきり聞かぬ異人館の中庭は黄なたんぽぽの花 

・出帆の笛はあんまりかなしくて山の手街の窓は閉ぢてある

・びらびらの花簪のわが母にずつと前の春まちで出逢ひき 

・てのひらをかんざしのやうにかざす時マダム・バタフライの歌がきこえる


    
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