津軽照子『秋・現実』Ⅱ (モダニズム短歌)

・まどに赤い花さいて
 芯に刺客の眼をひそめる   〈月曜〉

・しろい女體の しろい猫の媚
 カンヷスもしろいままで   〈火曜〉

・夕やけ鏡まで染めて
 オペラ開場の時間が迫る    〈金曜〉

・涅槃の繪のけだものか 父の死床
 最後といふにただ泣いてゐた

・あをぐろい星の夜空がかあてんの
 このすぐうらに忘られてゐた

・ちよこれえとおもひでにして にがみあり
 むかふ渚に灯が見えそめる

・空にたくさん雲があり 夜ふけの
 木犀の庭にまどとざす 

・木犀のにほひ强すぎて
 憑かれた眼はやみをひとすぢにみる

・庭にくろい影がゐて はたり閉ぢる扉(と)の
 おほきなゆらぎわがかげとなる

・まどによりむなし心の眼をすぎる
 月夜の猫はよぶ名もなく

・あをあを月の光りの散らばりに
 しろい猫ゐてくぐりあるく

・秋はれて窓ははるかに空のあを
 蘭の花心にひそみにほふ 

・赤とんぼちらばり空がながれくる
 しろい手のひらそろへてうける

・をさなくて磯の小石にゐる貝の
 無雜作にとれぬ力がある 

・波は搖籃のゆれのしづけさあつまり棲む
 をさなき海のこれら生きもの

・うすぐもに星ちりばめて海の空
 いかにかすかにわれ砂に臥す

・夜の磯なきだしさうな魂に
 ふいと時計がきざみこむおと

・闇ぬけてほそぼそときた崖みちの
 したは渚のほのあかり波 

・流星がすいと消えた磯山の
 くろいうしろにひきつけられる 

・淀ふかみ靑底ひえて横たはり
 ねむりつづける魚族となる

・淵ぞこのしづかな水のひえにゐて
 魚の行儀をつひにみならふ

・ひざのうへかるがる小猫ねむりゐて
 そのまま猫のすがたがある



津軽照子『秋・現実』Ⅰ
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