筏井嘉一『荒栲(あらたへ)』Ⅱ (モダニズム短歌)

 

・天気よく郊外の道をさまよへばRousseau(ルウツソオ)描(か)きし樹(き)や家があり

・やるせなくO.Sole,mio(オ・ソレ・ミオ)はうたへどもわが太陽は今日も照らずも

・映畫にて巴里(パリ)あはれなる戀がたり見てゐしほどはまだ救はれき 

・澤庵を咀嚼する母の脣(くち)もとの微妙なる動きをしまし見にけり

・わが生(よ)昏(くら)くたまらぬときは錢湯に眞裸(まはだか)の人を見にきたりけり

・スウ・キヤロルのほほゑみかけし瞬間がスティイルになりて我に見られし

・慘(みじ)めなる愛つきぬけてModigliani(モヂリアニ)ゑがく淫賣婦(ぢごく)にわが救ひ見ぬ

・母の身にわがやどりける夜(よ)の怨(うら)み生(うま)れざりせばあやまちなきに 

・煤(すす)けくる障子たてこめ紅毛の論じあまさぬ思想に疲る

・道路打つあの勞働もこころひく眞面目になりて考へにけり 

・陰慘な露西亞の小説讀み飽いて萩や桔梗を愛(め)づる秋なり

・魚は魚貝は貝我は我なりけり波寄る巖間(いはま)にうつとりかなしむ

・海はるか水平線を見てあれば彼處(かなた)あてなきあこがれの湧く

・朝船の窓に水夫の顔が見ゆパイプくはへゐて燻(くす)める横顔

・ポストまであゆみきたりて見直せば手紙の宛名いかにも戀し 

・このおもひ彼女の胸へますぐゆけポストに投げし手紙音あり

・一言(ひとこと)のちかひきよらに胸にありいのちにかけて信ぜんとすも

・身ひとつに指彈(しだん)うけとめ晴れやかに笑(ゑ)みては見するわがをとめなり

・身にからむ義理人情のけうとさよわが戀さやに遂げまくぞする 

・逢ふ日また期(ご)しがたくしてSolvejgs(ソルヴエデ)の旋律(ふし)のこころをきみくちずさむ 

・動きそむる汽車の窗よりわれを見し涙とび出さんばかりの眼(め)なりき

・嚙(か)みし飯(いひ)をのみこみしなに閊(つか)へたり身揉(みもめ)にあへる彼女思ひし




筏井嘉一『荒栲』Ⅰ
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