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石川信雄『シネマ』Ⅱ (モダニズム短歌)

・嬰児(みどりご)のわれは追ひつかぬ狼におひかけられる夢ばかり見き 

・黒ん坊の唄うたひながらさまよつた街(まち)の灯(ひ)のくらさ今もおもはる

・すばらしい詩をつくらうと窓あけてシヤツも下着もいま脱(ぬ)ぎすてる 

・あやまちて野豚(のぶた)らのむれに入りてよりいつぴきの豚にまだ追はれゐる

・レエルぞひにゑぞ菊の畑(はたけ)つくられある踏切番人はわれの伯父なり 

・しろい山や飛行船が描(か)かれてある箱のシガレツトなど喫(す)ひてくらせる

・數百のパラシユトにのつて野の空へ白い天使等がまひおりてくる 

・あをい空のしたにまつしろい家建てるどんな花花の咲きめぐりだす

・底知らぬ空のまんなかに飛びおりる快さのほかはわすれはてたる 

・空のなかをしろい火のはしる夢すんで花びらのやうな眠りがのびる 

・てんてんとそこらあたりに散らばれる怖れほど赤き花束はなき 

・パイプをばピストルのごとく覗(ねら)ふとき白き鳩一羽地に舞ひおちぬ

・花苑のやうな合唱の波のなか舌足らぬ聲を探しはじめる 

・新聞よ花道よ靑いドオランよパイプよタイよ遠い合圖よ 

・ギイヨオム・アポリネエルは空色の士官さん達を空の上に見き 

・砲彈に生命(いのち)うしなつたひとびとを悼(いた)むのもやめてチイズを食べる

・テキサスの方言を學びゐたるころ夜もすがら起きて晝をねむりき 

・星といふ名を持つた花のまなざしが十三日ほどわれをくるはせる 

・すはだかにならうと決(き)めた眼の前に街が木が顔が起きあがり來る 

・自らをポケツトのやうに裏返しわが見せし人は今どこをゆく 

・生命(いのち)さへ斷(た)ちてゆかなければならぬときうつくしき野も手にのせて見る 

・鏡取りふとよく見れば木や海やわれならぬしろい笑ひもとほる

・かたはらに白きまぼろしのふと立てるかかるしづけさはいまだかつてなき 

・夜なかごろ窓をあければ眼(ま)なかひの星のおしやべりに取りかこまれぬ

・スポツトで追はれてるやうなはにかみよ今日もあてどない街のさまよひ 

・かうもりのぐるりの雨はまつくらな空いつぱいに音立てて降る


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