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加藤克巳『螺旋階段』Ⅱ (モダニズム短歌)

 


・ハンチングのおとすかげから傾きて海面はわれの周囲となる 

・貝殻の旗で装つてしづしづと夜の酒場へぬすびとにゆく  

・はすかひに港の氷雨たへまなくぬれ色あをき石ころをける 

・鋭心 石なげつける 竹だけの 音とんで來る われのまなこへ

・草々にこもる命をふみにじり灰色のわれ風に立つてゐる 

・莨のけむりからまる幹は伸びたちてわれの左手まひのぼりゆく  

アブサンにはしる距離さへにほひだしそこに觸れたるはすみれの花なり 

・はるのよにほひけぶらふ杜ふかくふとい樹幹を抱(だ)きしめにけり

・樹肌刺せば全山の騒(さや)ぎひき拔きてまた斬りつける愉しくなりぬ 

・大木の幹に穴あけしたたりおつるいのちに濡れて狂ほしきかな 

・枝を過ぎ葉に觸れはにふれそしてみなわが眼のなかへ雨おちてくる 

・庭椅子の一脚(いつきやく)折れたり傾きて葉緑素のなかにわが胸つつこむ 

・雲柱の一角くづれて縞馬あらはれ驅けだすかけだすギヤロツプのおと 

・靑いペンキはあをい太陽を反射(かへ)すから犬の耳朶が石に躓く

・雨空へ掌(て)をはりつける指指の方向はしたたる不幸でしかない 

・屋根窓からのぞかれたこの粉飾は西班牙皿にうつされてゐる  

・杜ふかく紅(べに)の茸(きのこ)をふみつぶし氣狂ひにならうとねてもみるなり

・熟(な)りすぎて 樹にのぼる月 たたけかし地から季節はうちくづれゆく

・はづされて額(がく)のない壁眼底をすべり墮ちる星か音の虚(むな)しさ 

・遠くしろくおともないあらそひ雨からまりそつとさがすはわが翳(かげ)のなげき

・うちがはへまはると妙(たへ)なる風景のわれは肋骨をかけのぼるなり 

・夜の底から靑い聲反響(かへ)るすりよつて病犬は井戸へ月を落しき 

・葡萄園、ともる靑い灯、掌(て)の筋をはしる方向へわれはなくなる 

・あやまりて月の光を喪(うしな)ひぬ石ころ徑(みち)の石ころのなか 

・石階を青い魚抱かえ降りてゆくしづしづといまはかなしさもなし 

・闇に濡れて池の花あをく水たたけば背後に月の雲やぶるおと 

・足下に夕潮ひたひた白い石をぢつと握れば動搖もなし 

・黄な月のほつかりと浮く湖(みづうみ)は魚の啾くさへ身に泌みてけり 

・闇いちめんさきほこるなかなよなよと慄えつつ花をしづかに潰す 

・壁、壁、壁しづけさまさりおさへられおさへられつつつかれてゐるも




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