日比修平『冬蟲夏草』Ⅰ (モダニズム短歌)

 

 

・斯きて花ひらかせし罪ゆゑにひとでとなりて土にひれふす

・溫室の天のガラスに海港のとある場面がさかさまに見え

・御(おん)とのゐ絶えてあらねば球根はにく厚き芽をふきにけるかも

・溫室にぬすびとひそみ居るなれど花瓣がそつてひらく夜となり

・裝束のふくめんいまは脱ぎすてて花の變化(へんげ)を隙間(すきま)見するも

・粘土をばぱんぱんたゝく家の灯が干潟にとどき更けわたるなり

・めろめろと紐やうの蟲這ひゆくは水のたまりをさとりしならむ

・夜をひかる蟲水中に無數ゆゑ下駄や位牌がうちよせられぬ

・軍艦が照らしいだせど貝るゑは夜のいとなみを恥ぢらはぬらし

・猫族が貝がらを嚙むおとかなし干潟のそらに菌絲萌えつゝ

・靑貝のかふすぼたんはしのばせて杏の花のしたにしやがみぬ

・てふてふはとてもしつこいよしなれば伏せの姿勢でやりすごすべし

・なめくぢはまだ棲まねどもとろとろと日のけぶる野は痒くてならぬ

・たなごころに觸るる生毛よ梨の花遠野にうかぶ晩ともなれば

ももの木をゆすれどこれは樹木にてぜんたいとまれと木靈(こだま)が云ふよ

・花々の瓦斯にやられた鳥が居る赤いまつちをすつてくだされ

・をみなごは帷子(かたびら)あわあわ羽ばたきて茗荷(みようが)畑のそらを過ぎゆき

・貝類はすがたしどなく小波のひそけきままに動かされ居り

・びやうにんの列は音なくさざなみの白きわらひを踏みて行くかも

・らんかんにしてらしやめんが息づけどここにたくさんあるさぼてんなり

・をとめごの寝ほるるころをあららかにはちすの花は開きけるかな

・眼のみえぬかはずとかげはからたちにさまも無礼になげつけられし

・さかな飼ふ館(やかた)のあるじいま眠り靑い魚群にうなされてゐる

・ところてんそのほかへんな臓腑などが枝にまつはり空にもおよぎ 

 

 

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