・春來(はるく)ればまた生(い)くる日を美(は)しといふ光(ひか)る若葉(わかば)もとく萠(も)えいでよ
・神(かみ)ありとつゆ知らなくに少年の眉びきとほく雪を仰ぎし
・火山系北(くわざんけいきた)にきはまりゆくところわがゆきし村ありて雪をふらしつ
・花の散るかなしさなどはひと戀ふるねがひに秘めて幼かりしか
・火箭(ひや)ひとつ中空(なかぞら)たかに燃えさかるただ眞晝(まひる)のみわが世界なれ
・何(なに)に戀ふるこころの谷を流れゆくセロの音(ね)のあり雲雀(ひばり)が鳴くも
・初夏(しよか)の空よ若きいのちのかずしれぬかなしみよ翔(と)べよ嘆きあへぬと
・しんと照る坂のまひるのきびしさにせめて眞紅(まつか)な花ころがさむ
・たんぽぽの花咲くとさへ虚言(いつはり)のごとくに思ふいつの頃より
・ひなげしの赤(あけ)に死すべくは思ほへど救はれがたき人さへやある
・ゆく春は盲(めし)ひとなりてひねもすをつめたき椽(えん)に坐り暮さむ
・うす赤き林(はやし)の中に人のゐてわがつくりなす春の構圖(かうづ)よ
・うつろなる瞳(め)に思考(しかう)さへ失はむ日かはらはらに花びら散れや
・まさぐれば見えねどさむき花びらにゆく春の日はいかにかあらむ
・この道のほそきに入れば木立(こだち)のみ赤き瓦の家が見えて來(く)
・踏切(ふみき)りをひとり越えつつゆくこころ忘れはてたる湖(みづうみ)が見ゆ
・いやはてのこころ敗(やぶ)れてかへる日も若葉が白き春の落日
・見なれつつ人妻(ひとづま)といふその肩の旅のごとくにさみしきものか
・きららかに眞日(まひ)照る原の上(へ)にしろき一木(ひとき)の花のあはれはいはず
・ポプラの林(はやし)きららに遠き昔より黄なる日傘がひとつのぼり來(く)
・雪山(せつざん)を一気(いつき)に越ゆる思ひありわくらばのちるすでに秋なり
・ああ七月ものの乾(かは)きのおのづから君が瞳(め)にちる野蕗のひかり
・心音(しんおん)のいよよ澄みてはよみがへる野蕗のかげりあまたに靑き
・へルマン・ヘッセまた七月の夏の子と花のごとかなしかなしきわれは
・あまりりす咲きたる頃を抱かれて育ち來し日や父母こひし
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