『彩色ある夢』(1983年版より)
さすが、稲垣足穂の盟友というべき作品。
キヤツピイは、リンゴの頬の、キイロいネクタイの少年で、夜芝生の上に、腰を下ろして休んでゐた。あたりは静であつた、キヤツピイは星を眺めてゐたが──からだを三つの弓にして、長いアクビをした。
刹那、ガチリと、白いものが口に入つて大方ノドにゆきかけたので、いそいで立ち上がつて、涙を出して、思わぬ迷惑をしてその固いものを吐きだすと、ポンと、芝生に、ころげ落ちた。
目をこすりながらキヤツピイは、よくよく芝生の上を見凝めると、それは、空から落ちて死んだ北斗七星の一つであつた──から、その夜は、北斗七星が一つ足りなかつたのである。