聳ゆる宮殿  石野重道  (稲垣足穂の周辺)

 

 

──旅人は際しなきシリアの広原に、バラ色の空に呼び覚まされた。
香りよき一本のエジプト煙草をくゆらせるのであつた、
立ちこめた夜が開き初めて、朝霧の幾重ものトバリの立ち退いた遠き東の方に、蒼空に聳ゆる、麗美なる宮殿があつた
旅人は、その宮殿を、見凝めるのである──


 タバコの煙の、旅人の目よりも高く消ゆる時、彼の東方の宮殿も、消え去つた、

 

 

 

石野重道 赤い作曲
石野重道 キヤツピイと北斗七星
石野重道 廃墟

 



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