眠り男A氏の發狂行列  高木春夫  (稲垣足穂の周辺) モダニズム

 

眠り男A氏の發狂行列

 

           高木春夫

 ストウブの影にて、石炭のおこつた顔が踊りだし、飛行器の丸窓からは、さかんに砂が落ちてきて、毛むくぢやらのステツキがおもちやの人形に接吻したり、ビルデイングのお姫さまを梯子形のローソクに照らして、のこぎりで誘惑したり、のちの寂しさには、えつさえつさと裸體を昇天させたり、あげくのはてには鏡をきざんで喰べてしまつたり。
 ブラボーブラボーと黄いろいコシマキをうち振りながら、きふ世軍のカナヅチぐらいはポケツトに捻ぢ込み、三角砂糖でもむちやむちやしやぶりながら、インデイアンの覆面(ヴヱイル)布の上までもしやぼん玉を捜しあぐねて、野原のまんなかでは狂人病院の白い旗を眺めてくらしたり、都會風景奇病のうちにも、アパアトメントやガレヱヂやハンテイングや築地小劇場やもみぢ狩りや虎狩りや東郷秀吉なぞは、六角多面の死人行列みたいに並べたてゝ、ビフテキ的手品師天勝氏のたねなぞは楕圓形のてんじよふにでも飛散させておけば、すむであらうし、お孃さんの、優しい肢體は、アスフアルトの上にたゝきつけておいて
めだまなんか要るまいとキレイに掃除をして、指の先には眞空管を篏め込み
ラジオならアポロトロンにかぎりますよと白狀したり、しやばつ氣を出してもみたり、ついでにゼンマイ仕掛けの靑色の舌もだして、ベロリベロリと電車も停留所も酒の肴にしてしまつて、好色精神はウヰスキイに混ぜこみ

「ちよつと失敬するよう」というが早いか、カウベもオオサカもキヤウトも市民会館前諸とも、うす桃色の敷物(カアぺツト)みたいに、くるくるくると巻きこむでしまつて。ギンザは
すいとり紙で吸いとることにして、おこのみであれば致しかたもないとあつて
トウキヤウの猶太人街とヨコハマの支那人街とは、最高速度詩型を構成して、三千億萬ボルトぐらいの車輪をつけて
ギリギルギルギリルギリギグギグリギリギリギリルと
葉巻もM・C・CもゴールデンバツトもW・Cもいともゆるやかに喫しながら 
サンフランシスコの朝寢坊をたゝき起して、
ぎん紙ざいくの宮殿なら、金十七錢に負けておいてもいゝよと
紐育や倫敦や伯林やモスクバの
高空はるけく消えいるばかり飛びにけりとなむ。    

 

 

高木春夫 虛無主義者の猫・・・
高木春夫 幻想W
高木春夫 ダダの空音
高木春夫 水の無い景色

 

 

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