二重の白痴  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

 

二重の白痴
   ou Double Buste

          山田一


エツフエル塔のサロメ無花果を載せた皿を廻して居る
エツフエル塔のヨハネはフオクが無いのでメガフオンを廻して居る

BUSTEの光を浴びた砂漠の聲が土耳古風呂の浴槽にあるテレフオンから聞えてくる・

『汝サロメよ・五月の春は婦人の手袋の裏側に熟睡して居る・速く!汝の皿を惡魔の鼻に示せ・余はエロオドである』

BUSTEの影を浴びた銀行の現金出納係の方からヨハネの聲が遠く聞えてくる・

『ミユウジカルに永遠である春は二重の扉に閉ざゝれた二重の夕暮のたちさるとき永遠に永遠ではない曙とともに永遠のための永遠の音樂をかなでやうとして居る・余はその光でフオクを探さうとして居る・』

エツフエル塔のサロメヨハネは兩手に五拾錢銀貨を握り右手を右手に載せたまま土耳古風呂の中で白い馬上の女奴隷が鼻の右側に涙をおとす蓄音機附の活動寫眞をみて居る・


『衣裳の太陽』NO.2 昭和3年(1928年)12月

 

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