園の中  山中富美子  (詩ランダム)

 

園の中

       山中富美子

 

タイムよりも早く樹の彼方
綠の薔薇の茂みから生れて
その樹かげの狂亂、風のなげき、
盲目の石像の高い叢より冷たい肩の上
深い綠の裡にかくれて、白い月は
茂る枝々を上りながら出てゆく。
空しい接吻の如く。

强い叢は派手な腕をかくして光らせる。
樹かげから立ち出る幽靈ら、
夏の靜かな叢に、彼らの首を切れ、
ダイヤモンドの如く。

風は茂みの裏から枝々に光りを噴上げた。


太陽の白鳥が蔭で光る、
そして叢に眠る。

茂る一世紀に叢林が低い日光の枝を
數少なく、ひらかせてゐる。
大理石の獅子像、夏の白痴が、
その恐しい眼を、枝の下に伏せてゐるのだ。

樹上に身をかゞめる雲は何も見ない、
茂みにそむいて。
曲つた楡の樹影で、それが彼等の人生だった。
お、運命の白い胸よ、
早い正午に、その腕をまはせ、輕く。

向ふで薔薇の茂みは暗い
木の間をすかして永遠をながめる如く。

水のそば、樹々の泪が深くわき出す、
新しい月はもう見えない。
影の白鳥らはすでに樹々を下りた、
風の上衣を裏返して。

 

 

『詩抄』(椎の木社 1933)『文學』(厚生閣書店 1932-06)

 

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