虚無主義者の猫・・・ 高木春夫 (稲垣足穂の周辺)

 

虛無主義者の猫・・・ 

          高木春夫

端麗なユーカリ樹のかげで
南洋の少女は戀物語りをやめてしまつた、
高熱百三十度の炎天の眞下に
蒸氣船に曳きづられてゆく物語りの
主人公の姿を凝視しながら、
熱風に吹かれる鐵色の頰に水銀色の水滴を
一二滴したたらせながら、然ふして
椰子の葉のカンザシを拔き煙草のやふに口にくわえた、
ボウボウと空想は煙のやふに燃えてゆき、
海は温泉のやふにフヤけ切つて、
小さくて豆粉のやふに轉落してしまふ
追憶は虛無主義者の猫で、
谷は妄想の刄物をひらめかす
                        

 

高木春夫 幻想W
高木春夫 ダダの空音
高木春夫 眠り男A氏の發狂行列
高木春夫 水の無い景色

 

 

           
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