落下する物質  水町百窓  (詩ランダム)

 

落下する物質

         水町百窓

裝飾物に落ちかゝる夜、あゝ、涯しないこの下降を支へて僕が居る。
窓から忍び込む夜、夜の奥の一つの形態、カーテンを捲き上げると、地球が僕の目の中へ月をはめ込む。僕は僕の内側に海鳴りを感ずる、肉體の中の月の温度、輕快なるミユーズの羽音がベツドの上の僕を呼び起す。
さへぎられた一枚のガラスの上に砕けるあらゆる物質形態、僕にまでとゞく光、肉體の上の銀色のマーク、僕は光に乗つて月の中へ肉體の眠りを墜す。

 


『生活の一章』(詩之家出版部 1932)より

 

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