夜のイニシヤル  山中富美子  (詩ランダム)

 


夜のイニシヤル

        山中富美子

檳榔樹の月の金色、
かれらの蘇生よ、
ほんとに奇妙な結果だつた。
風は砂から生れて行つた。
海のコムパクトの冷たい呼吸、
十字架に接吻して
濳楚な夜明けの星が石に變る時、
泡の肉體が空に浮んで
體溫のしやかな幻をかく。
檳榔樹のまぶたのかげには、
貝殻の理智が涼しさを呑みこむだ、
そこに一つの月が復活する、
一つの伴奏につれて。
いつも氣の毒な燈臺よ──。
彼方の海岸に樹々をよぎり
戰ふのは一人の神だつた。

 


※「濳楚な」→「清楚な」?
※「しやかな幻」→「しなやかな幻」?

『文學』(厚生閣書店 1932-12)

 

 


山中富美子 思出

山中富美子 海岸線

山中富美子 姿勢する

山中富美子 睡眠

山中富美子 聖夜

山中富美子 園の中

山中富美子 沈默

山中富美子 夏の一頁

山中富美子 夜の花




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