その日に聞かう  酒井正平  (詩ランダム)

 

その日に聞かう

           酒井正平

遠い野の様な表情の中で 咲き暮れたものを取り戻す仕草を なぞらへる様に 古い風景の中に閉ぢ込められた一幅の山水をわけ隔てなく感ずる事により 差別させられたる憧憬をみつもられた懸念の中にと追ひやりながら路々に足りないものをおぎなひ これらの持つ全ての行爲は明日を豫約した曾ての基礎にも似て居て 止められた異存の様に帆桁の外れた空間を 山にない海の表情から ひとつひとつひとつの道程をその意慾の中に培ひながら 氣付かない時間から氣付く意存にまで步みつゞめられた半月の様に打ちくだかれた懸崖へとまどろませる まどろませて居るあの美しい時間の様に 言問はれ勝ちな明るい日陰の表情で以つて 遠い所へ遠い所へと忘れかけられた話しかけられたその日の慰撫を

 

 

 

『文學』(厚生閣書店 1933-03)

 

 

 



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