寛大の喜劇  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

 

寛大の喜劇

            山田一

    Muse abstraite

圓るい鳩はミロのヴエヌスである:

と太つたエレエヌはトーモロコシを見ながら唱つて居る


    天子になつた俳優

"L'OPERA est une sorte des Venus"

と太つた天子は笑ふ:


オペラグラスを毀はした人間は鼻眼鏡を着けよ


    opera indulgent

(2) APOLLO も nudite は毀すのである:

(1) VENUS はワラのシヤポを冠る

(3)OPERAOPERA を比較して見やう


    paysage Commique

APOLLOMUSE の裸體に見惚れる:

APOLLO は聽診器をつけた醫者である


    Comedie indulgente

     (1)

電話のレシヴアをつけて私も見てゐる彼女は:

寫眞にすぎないのである

     (2)

女獵師は圓い腕を持つて片目を瞑つてゐる

彼女のワラのハンテングは獲物を見て居ない

     (3)

オペラバツグを兩手にさげて唱ふエレエヌ:を足首から秤にかけてみやう。といつた彼は・

彼は鬚を剃つて居る

     (4)

鏡にむかつて髪を刈つてゐるエレエヌを逆さに測つてみやう:

舞臺の彼女は唱つてる

 

 

※アルファベットと日本文字の間のスペースは誌面をできるだけ再現しようとしたものです。

Muse abstraite、天子になつた俳優、opera indulgent等の段を下げた文字は、他の文字の半分程の大きさなのですが、再現出来ていません。

 


『衣裳の太陽』NO.1 昭和3年(1928年)11月 

 

 

 

山田一彦 惡魔の影
山田一彦 海たち
山田一彦 CINEMATOGRAPHE BLEU
山田一彦 二重の白痴 ou Double Buste
山田一彦 花占ひ
山田一彦 Poesie d'OBJET d'OBJET
山田一彦 PHONO DE CIRQUE
山田一彦 無限の弓
山田一彦 桃色の湖の紙幣
山田一彦 Mon cinematographe bleu

 

 

 


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