星色の街  田中啓介  (稲垣足穂の周辺)

 

星色の街

         田中啓介

星色の街で
ピカソの月が
靑ざめた幾何學の頂角に
八月のリンゴとなり
花火となつて
煌き散り失せ
ガチヤン ガチヤ ガチヤ
ブリキ製の蛾が
窓をかすめる機械な音波に
しばしは
燐光の竊盜兒カイネ博士の十二使徒
ゼンマイのきしりを喰べ
まよなか
あらためて
ビツクリ箱から飛び出した色紙の月に
悲しきマツチをすりとばし
赤いオモチヤの自働車の格納庫に
ゲルべゾルテのガス燈煙らせ
夢の足もとにはらばひ
彼のロボツトの襲撃をさけながら
微妙なマリイローランサン孃の癲癎を指し
リラリリリと
セルロイド製のコーモリが
靑い假裝行列のネクタイに
カタン コトン
こはれたタイプライタアのキイをたゝきながら
夜の文明史の赤いペーヂを埋める。

 

 

 

『G・G・P・G(ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム)』第2年第8集 大正14年(1925年)8月

 

 

 

田中啓介 月夜とTABACO
田中啓介 分離以後の恒等式

 

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