神崎縷々  (モダニズム俳句)

 

『天の川』の神崎縷々と篠原鳳作らの無季俳句を認めるか否かで新興俳句運動は分化したと云われる。その神崎縷々は37歳で早逝した。その後師の吉岡禅寺洞の手で『縷々句集』が編まれた。その句集の全句です。


茱萸の花にぼろをほしたり草の宿

・がらがらの音くらべあふ時雨宿

・行く年のこぐらき風呂に沈みをる

・汐しぶきかぶりて翔ちぬ寒鴉

・はゝそはのはゝの火桶につどひけり

・萠でゝ蕗の花芽のまぎれふき

・禮堂におぼろのともしいれにけり

・つゝじ見る人の如くに行きにけり

・靑嵐やさと吹きなびく榛の房

・吹貫の空を靜かにわたる船

・さゝがにのおり來し夜の臥榻かな

・さゝ波をきざめる泛子や菱の花

・厨房やジヨツキにさせる花かんな

・夏の船玩具の如く走るかな

・睡蓮に鳰に眼鏡をあはせけり

・婢また願の糸をそへにけり

・願の糸地にそゝろびくほどながし

・うら枯れの色まさりつゝ芦騒ぐ

・芦の穂の茫々と吹きなびくのみ

・鞠のごと廣吿氣球凍てつける

・敷くからに落花の茣蓙となりにけり

襤褸の雪こぼしてうづみくずをれぬ

・うづくみて雪かづきをりみじろがず

・阿片(モヒ)をさす襤褸をたくりぬ雪あかり

・首垂れぬ注射針(はり)かざす手のかじかめる

・阿片をさして光るまなかひ雪を凝視(み)る

・冬霧やでゆの煙のけじめなく

・うなばらの滾つなぎさに芽ぶくもの

冬日して地獄の坎は潰へ陷つ

・古草や滾ちかづきて泥の海

・湯柱や冬ざれのはらうちゆるぎ

・ぬばたまの闇の夜すらをすきま風

・すき風の妖婆ぞ闇の戸をたゝく

・妖婆ゐて寒き息噓やすきま風

・血をはけばかむさぶるらむ冬空の

・冬ぞらの神にこひつま嘆こうも

・血に痴れてヤコブのごとく鬪へり

・凍てつきし血潮をかわく神のにへ

・防風摘み渚は遠くつらなれり

・草萠えて友とみたりの原をゆく

・牧は春ヨブとみたりの友のごと

・ふとかなし暑さにたゆるすべなきに

・みごもれば金魚けだるし藻にこもり

・あさは快し金魚はなやぐまくらべに

・桐の實のさらさらとなる音にこもり

・芙蓉さく恙にこもる窓のへに

・ひとゝきは芙蓉にむかふおのづから

・大いなる靜けさにあり秋を病みてて