鷲の棲む皿
莊原照子
Ⅰ
苦痛は夢よりもなほ優しかつた リルよりも──
あの影はヒイスのある銀砂の日
白い鷲をゆめみてゐる
羊毛を斷ちつくす手のその蔭
衣ずれは這ひ寄り うすれ
陷没する闇の背部からは
水色の髪だけ脫れ出る
Ⅱ
夜の笹やぶを透かし
鳥らは苑の一隅をみる
あそこには芥子菜が濡れてゐる
啄めば胸に泌むであらう
Ⅲ
園丁が燧石を掘り
たれのもの ? と言ふ
若いピユツクは答へる 僕の夢
銀星はつぶやいた 私の戀でない
薔薇にさそはれるリンネツトの聲よ
私達はモヂリアニの母子像を
私は遙かな夕月に掛け──
『現代女流詩人集』(山雅房 1940)より