タイプ  酒井正平  (詩ランダム)

 

タイプ

            酒井正平

 ☆ ハリイと名前の 付いた男に 一番近い曲り角
を ロンギノスに乗つて スミが彈く 
ピアノが好きだといふ──手袋の白い女の人とならん
で ハリイの子が寫眞をとつてゐる


 ☆ イチゴ畑にリボンを落した少女と ゴルフリン
クで ボールを追つ馳けてつた少年とは知己でない 
むしろカリンといふ少女は みんなのボウトで 半島
に渡るのを好む


 ☆ ハツサンの畵いた 繪には ハイが止まらねば
ならぬと いふ 詩論を持つてゐる子供は みんな屠
鷄塲で仕事をみてゐる


 ☆ 行商人の群と 僕達の父親との 和睦よりも
小さい汽船會社の船で 無人島に渡り 時計をみた方
が やさしいと思ふサリイは たつた一本買つたルウ
ジユで 川を塗つてゐた


 ☆オームと 遊ばないかといふ 符徴のために 自
殺した少女の お墓に おまゐりした


 ☆ 船大工は ツツマシイ仕事を する ロバの日
を記念する ために アカルイ色をした上衣が 鬪技
場の 三箇の窓を持つて居る


 ☆ バランスのある海 首のある木馬 スミレにゆ
きて 我が友はキリンを好む あゝブドオ樹よ

 

 

 


『20世紀』第1号 昭和9年(1934年)12月

 

 

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