母
吉田一穂
あゝ麗はしい距離(デスタンス)
常に遠のいてゆく風景………
悲しみの彼方、母への
搜り打つ夜半の最弱音(ピアニシモ)。
嵐
森
彼女にひそむ無言。
夜を行く裸形の群れ
彼等は踊る。
魚
愚かなる野の祭り。
自像
黃金と香気の密かな文字を刻む深夜の薔薇
背後(うしろ)をゆく靜かなる群れの中に影像を呼び
生きながら面と線とに容姿(すがた)を分解(わか)ちて印し
その時劫の鏡に天宮算命圖(ホロスコープ)を畫く舊約の時。
『海の聖母』(金星堂 大正15年(1926年))