古き市街  瀧口武士  (詩ランダム)

 

古き市街

          瀧口武士

曇日
肉屋から腺病質の少年が出て來る

斜陽
裏門に梨が咲いてゐる
癈屋の庭から籠を持つた婦が現れる。

弦月
癈園の向ふに春がある
二階で少年が新聞を讀んでゐる。

春闇
瓦の上に熟んでゐる星
新樹の河畔で天然痘が猖獗してゐた。

 

 

 

『新天地』(新天地社 1926年2月)

 

 

 

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