村田とし子  (モダニズム短歌)

 

・何と云ふかなしい歌をうたふでせふ雪のふる夜は蓄音機までが

・王女さまの瞳のやうなはなやかさぱつちりひらいたたんぽぽの花

・霧ふかい山ふところの溫泉の宿の日暮れを散る山桜

・玲瓏とあをくはれてる大空のひるまぽつかり出たお月さま

・うえとれすのあいそも少いていぶるに匂ひをためた水仙の花

・地を泳ぐむすめ人魚の見るゆめよゆめのほかげに咲くシヤンデリア

・爛々ともえるは赤いけしの花もえるは娘のこの戀ごころ

・星もない月もない夜だこんな夜こつそり地球をにげてゆきたい

・若い日は消えてかへらぬ日附印かへて淋しい心になつた

・電報の死んだ人數おもひかへし心も暗くかへる雪道

・人を戀ふときの心のかがやきは彗星のやうに靑くあかるく

・泣け女涙をからせくだかれた心の瓶に何がくめよか

・消えてまたおぼろに浮ぶひとの影靑磁の壺の色のつめたく

・煮ものする鍋にふつふつ白い湯氣朝は靜になごむ心よ

・薪をたく煙にむせて開け放つ厨の窓に冬の雨つめたく

・感情が火花をふいてる卓上の西班牙皿の眞赤な林檎よ

・むすめ心失ふまいと休憩のわづかさおしんで握る竹針

・自動車を乗り捨てて立つ日暮近いホテルの夜の赤い葉鷄頭

・化粧終へて女同志の氣安さに帶もなほさず宿の箸とる

・湯づかれの輕いけだるさ窓の近く寄れば氣ぜわになきたてる百舌鳥

・夜の雨ほそくつめたく降りそそぐ旅の心にほそくつめたく

 

 

 

 

 

 

 


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