ドミ・レエヴ
水蔭萍
1.
黎明は劇しい吹雪から七日の月光を 吸つてしまつた。
音樂 と繪畫と詩の潮の音は天使の協音がした……
音樂に於ける僕の理想はピカソのギタアの音樂だ。
黃昏と貝殼の夕暮。
ピカソ、十家架上の畫家。肉體の思惟。
肉體の夢想。肉體のバレ……
頹廢の白色液。
三本目のパイプ菸草の後に起る思念は一つの黑い手袋に入つてゆく───
ミストラル(北風)は窓を叩ぐ。
パイプから洩る、戀は海邊へ。
2.
蒼白な額に流れる夢の花粉。 風の白いリボン。
孤獨な空氣は穩かではない。
陽の落ちた夢。
枯木の天使の音樂に 綠のイマアジユが漂浪し始める。鳥類。魚族。獸。木も、水も、砂も雨になる靜かなシユロアを待つばかりだ。
3.
彼女を紫に印象したアプリオリと星のシステムは風の潔ペキ性を嫌がる。アスパラガスの葉蔭 フオルモサのセラフアンとミユ-ズは真夜中の美を摘む。
黃昏は玻璃色の少女を放心させた。櫻質のパイプの詩神。窗にみちみちた虛空は、少女の若若しい靜脈を ……
鮮らしい光りの唇を……
半夢は夜あける。
※「叩ぐ」は多分「叩く」。『林修二集』の日本語部にも「く」になるべきところが「ぐ」になっていたり、「が」らしきところが「か」になっていたりで、日本語表記に問題がありそう。
水蔭萍(1908‐1994)
本名は楊熾昌。風車詩社の創設者。筆名は水蔭萍の他に水蔭萍人、水蔭生、柳原喬、南潤、島亞夫、伊藤逸太郎、森村千二郎、山羊、山羊生、Goat、島田忠夫、柳澤昌男、ミヅカゲ生等等。風車詩社当時《台南新報》文藝欄の編集長だった。
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戸田房子 遠い国 台湾 風車詩社