戀愛詩
利野蒼
秋の部屋にその人の横顔がある。
窓がある。重さうなカアテン。
影がある。影が少し動いてゐる。
俯向いた眸差。
美しい手がセエターを編んでゐる
花園はかたく閉ざされてゐる。
誰れのためでもない。誰れのためでもない。
四阿屋には誰れも居ない。優しい風の忍び足。
戀愛の神─まだ誰れも來てゐない
その人の姿勢。ボッブの麗はしい運動がそこにある。
棗色の長衫。その人の最も女らしい部分。
あゝ神々は汝の罪を清め給はず。
洋燈の影に心もとなき燈心のむせび泣く夜半。
凡べてのものが、闇から立ち上るその人の震へる聲のやうに、その人の病める胸のやうに
※四阿屋(あずまや) 棗(なつめ) 長衫(ちょうさん)
「台南新報」1934年11月12日
『日曜日式散歩者』(行人文化実験室 2016年9月)より
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