2017-10-09から1日間の記事一覧

海生動物 4  遠藤忠剛  (稲垣足穂の周辺)

……薫の高い白檀の林の生えた龍宮の門前の庭をめぐつて外界と境をして小川が流れてゐる。そこには黄金の橋が懸つてはゐるが下は溷(どぶ)の流れである。半月形をしたその橋の黄金の階段に腰をかけた二人の侏儒が、柔かな小人革の赤靴をはいた兩足をぶらぶら動…

海生動物 3  遠藤忠剛 (稲垣足穂の周辺)

我等の悲しき暴君は己れにも他(ひと)にも分らぬ恐ろしい孤獨の悲惱を抱いてひとり海に生れながら、海に棲む者の群を遁れてその力のままに有限の海に無限無終の慘忍三昧に耽つたのである。魚を、魚を、限りなき魚を幾代となく彼の種族は悲しく貪り啖ひ飽くこ…

海生動物 2  遠藤忠剛 (稲垣足穂の周辺) 

B 私の母は生れた時、その嬰子(あかご)特有の赤い頭は公方柿のやうに尖り、またその眼は櫧子眼だつたと云ふ。出産祝ひに親類の畫家が蛸の繪を描いて送つて來たので、私の母の母は産褥(とこ)の中で齒がみして怒つたとか云ふ話。── C 私はこの夏、八月三十一日…

海生動物 1 遠藤忠剛  (稲垣足穂の周辺)

稲垣足穂編集『文藝時代』「怪奇幻想小説特集号」(1926年8月)に掲載された遠藤忠剛の傑作。一種の怪獣小説? ご高覧あれ。 A AA 何時の日から、又なにのためだかしらぬ、兩肩の筋肉が巖疣瘤(こぶ)となつてもりあがつた毛だらけの眞黑な大男が三里四方もある…