・月影に喰はれる夢におびえつつひもじくて猫は眠れぬなり
・蒲公英(たんぽぽ)の花花のなかにおちこぼれ消えたいのちは星かわからぬ
・噴水のなかの世界よりながれくる春になる音(ね)が今日も聞える
・わがねむり夢にとられてゆく頃は月夜の空に虹かかりをれ
・靑や黒の美しさ知らぬ赤ん坊の頃の眼が見たやさしさ知らず
・長い路に鈍(のろ)い驢馬らをあゆませて花見てまはる春の苑なり
・人間の見たこともない國の映りゐる泉(みず)飲み暮らす獸(けもの)たちなり
・花咲かぬ草花となり晝も夜も水飲まされし季節も過ぎて
・眞夜中の海からあがって來たわれはなんと大股に街歩みゆく
・ほろびゆく星星にやつたやさしげなこころもいまはよほど遠いも
・ペルシヤからさほど遠くない國國は赤や黄の花の咲く國であれ
・春山の切株に來てやすみゐるこころに灰色の獨樂まはり出す
・春かすむ都の空にまぎれ込み白の氣球をわれは盗めり
・四五年は昏睡に落ちてゐしなれば白痴のわれが蝶にみとれる
・四年前死にかけてゐた昆蟲のまなざしが時にわが眼にやどる
・はなやかな晴衣着るさへけだるくて魚族の世界われあくがれる
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