・底知れぬ深さの中にかかりゐる地球を思へり天幕の中に
・ラテルネにルツクサツクが映(うつ)りをりわがピツケルを磨き了へし時に (ラテルネ=手提げランプ)
・うつさうと茂れる大樹(たいじゆ)の上にきて月の光はまつさをとなる
・極地天幕張りてわれらにこともなし風おだやかに暮るる夕暮
・ラヴイネンツークを登る危さにゐて雪煙のなびく頂稜をふりあふぎみつ
・太陽は岩壁(かべ)の厚みの向ふとなり俄かに寒し落石の音
・霧の中ゆ現はるる岩はみな濡れてをり濡れたる岩はいづかしきかな
・岩雪崩霧のさ中にこだましつつ次第に遠し夜は明けむとす
・ザイルを静かにたぐりつつ大空の逆光に立つ我を意識す
・ビレイングピンの全く見当らぬスラブなり次第に空間を意識し始む
・ましぐらに岩をのりこえてゆく石の音二百米の空間を落ちゆくならむ
・夜更けてあらし静もる池の面にひとつ影おとす星もあるべし
・奥穂高の夕空かぎる頂稜になほくろぐろと人のゐる見ゆ
・睡り足りておのづとさめぬすがすがと天幕に射す水の反射(かげろふ)
・ザイルを静かにたぐりつゝ大空の逆光に立つ我を意識す
・さやかなる月のぼるときいつせいにそよぐ木立の音のきこゆる
・ザメンホフのことを我思ふポオランドを祖国としたるその眼科医を
・世界語をつくらむとせしザメンホフの祖国いくたびか兵火に潰ゆ
・靑草の斜面たちまちたちきれて眼下に深き谷あらはれぬ (車中)
・夕近き谷の底ひにきらめきてそこばくの水の落ちゆくが見ゆ
・二年前に讀める書物にかかはりあるアビシニアの町の名を思ひ出ぬ
・大火といふ漢名をもつ星が天の一方に沈みつつをり
・數萬の書物の燃ゆるありさまをうつつの如く思ふ時あり
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