惡魔 の影
山田一彦
OU ESPACE SANS HYPOTHÈSE
空を絞めて絨毯の血を毟る人類の憂鬱を見上げる
剃刀を嵌めた寢臺
彼女はもつと象眼の蓋の裏を撫でた
習慣の環を懸けた腿の外をひとつの雨の帆が馳せめぐる 他の雨の帆たちは明確に足をしめす 彼女は耳朶の麗らかな順環をほどいた
私は猫の首をのせた鏡から凝視を避けやうとしての凝視を續ける 彼女は麥酒を挟む夢どもを舐めた
ひとつの玲瓏なる卵のために永遠に失ひきれぬ玲瓏の卵 彼女はその雛鳥が噴水の蠟蠋を燃やさうとするのを辛らうじてとめた 彼女は占の函を與へた あるひは机を窓の絹へおし當てる 私はその寢臺の上へ卵を投げた 私は薔薇の絲のことに就いても忘れては居なかつた 水をとり圍む灰ども あるひはその幕の間をのぼる所のオブラアトの綱に夢の頸をくるむ
彼女の華麗なる勞働は腦膸を狭まくする黑い太陽の棘をさへみせない 私は鉛の翼を持つ馬の齒を洗ふために金字塔に攀る まだ鍵穴の艶やかなる髭に化粧を
ほどこしては居なかつた 長靴の産毛どもは灰を吸うてあるひは溜息する 淡淡たる迷信の環が城壁の周圍を間斷なくゆれつづける
※「蠋」→「燭」か。
『薔薇魔術學説』第2巻第2号(昭和3年2月)
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