グウルモンにささぐ 衣巻省三  (稲垣足穂の周辺)

 

    グウルモンにささぐ 

             衣巻省三

      シモオヌ 雪はそなたの脛のやうに白い
      シモオヌ 雪はそなたの手のやうに冷い

 

たそがれ 丘の上に雪がわたる
丘の下ではたくさんのシモオヌが死んでゆく

 

    無題

月光に空氣銃の先がひかつてゐる
猫はむかふをむいて動かない
私はトランプの肌に耽つてゐる
眞晝のようなしづけさ
空氣銃で猫をどやしつけようと思つてゐる

 

    發狂

薔薇色の一點が私をいざなふ
ふいとその方へ道をそれる
眠りに入るように引きづられて行つた
目覺めようとすることはくるしい
元の軌道はもう見えなかつた
ここの方がよほど樂である

 

    梟

森に黄色い提灯をつけてゐる
惡徳行爲がどこかではたされた

 

    憂欝

いろんな音響が生埋めにされてゐる

 

    闇
     彼女のうちには闇があふれてゐる──ボードレール

懐中電氣をもつて彼女の地下室にをりて行つた 何が彼女を美しくさせるのであらうかと思つて 私はなにもみつけることはできなかつた 電氣がたちまち消化されてしまつたからである 霜のような凜烈たる闇の潮にやがて私をも失つてしまつた

 

    背中合

どちらかゞ地球を一と廻りしてをいで
さすれば面と向き合へる
近くて遠い仲とはこのことにて候

 

 

 

 

 衣巻省三 毀れた街
衣巻省三 春日

 

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