林亞夫(林亜夫)  (モダニズム短歌)

 

戦後は林民雄の名で歌を発表している。昭和12年ごろは、山田盈一郎とともに、エリオット、パウンドに惹かれていて、ポエジー派の颯爽たる理論家として知られていたらしい。簇劉一郎の友人の同名の童話作家は彼のことか。

 


・醫學生が兎を買ひにゆく 花粉のなかのサモワル これから睡る

・小犬 パアゴラに干されたままだ 破れ馬車の聲だけする。

・太陽が河を洗つてゐる 惡癖と十字架が多い 島の合圖きいた

・驟雨もある 公使館の花花はすでに古くなつてしまひ 風化です

・鳥を絞めころす 前齒をしろくするために 放埒な時間を流しながら

・毛髪はえばれと結び 祭典であつた ウオツカならば咲けよと合唱する

・ライカ それは淫らな掌をしめす 横目で 少女は灌水浴の準備をする

・洋畫展では派手な儀禮を 花總(はなふさ)あるひはソワレなど 午睡の區域に屬した

・沼澤に近い よごれた樂譜ばかり 少女は兎唇である

・まい日の洋裁に慣れた 華奢な義眼(いれめ)のひと ギタリストは愉しく打つ

・記念館で訣れる 薄倖な走り書き そのまま句點となる

・ヴイナスの像に霽れる 雅宴のあと 祝砲は海へゆくのであつた

・匂つてゐるのは木犀 そして 波止場へ行く犬とこんがらかつてゐる女たち

・小猫すてに行く 道すがらヘア・ピン落ちてゐたし 月の形もおぼえてきた

・吠えてゐる船 水夫長の小指(れこ)の死産 その方角へさかづきを擧げる

・競馬場に凭れるのは月ばかりでない ギタルとホタル 茗荷を祭る風習はすたれた

・靑い枝へチイズは懸る あれは呼吸器といふものだ ヨアケの術語には騙された

・大學の屋根から風が吹く 西瓜畑でプルタアクをよみ穀物のやうな顔をしたのは誰だ

・赤面する右の家屋だ 告知板には濡れたモノクルが光り もつぱら毒舌した

・Q市の叔母は饒舌に脚を早めた 飢饉もヒツトする あれは象皮病の処方だ

・ひかる裝身具をかざし 新たな軍記をしるす
響(とよ)む それは海ばかりではない

・匂へる干戈(かんくわ) そのかずとおなじき碑文をよむ 湖水には雨がそそいだ

 

 

 

モダニズム短歌 目次



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