加藤清  (モダニズム短歌)

 

・ひつそり影に沈む影 雲と草 僕を透明にする秋

・分解する落葉の原理沫殺し紅色素(アントラチン)と僕の心象ふらすこに沈澱する

・僕の夢にメスは入れまい タンニン 紅色素(アントラチン) 分解する紅葉に君の記憶ばかりだ

・しろい雲とコスモスの群落地帶 靑空に夢をつないで先生の顔で一ぱいだ

・繪具がなくて繪が畵きたくて泣けた日もある空に地に赤い葩をむしり捨てた記憶

・三面鏡いつぱいの秋空 新聞が散らばつて靜かな床屋だ

・貴女の記憶が赤いから赤い花かげばかりにゐて寂しくなる

・しらけかへつた草原の中に赤い服の少女ゐて曇天の重量を支へる

・靑葉の點描する鋪道に傾く影 白いパラソルに吸ひ込まれる夢がある

・水引草の花莖風に搖れる川べり 娘ら 夕月くだいて足を洗ふ

・僕の影にしみついてくる君だ命までつめたく沙山の冬尖る

 


合同歌集『流線車』昭和9年(1934年)

 

 

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