夜の花
山中富美子
左右の端麗な決定と悲哀とにかかはらず、
かたはらまでおとづれた夜半は最早豫言を
生命としない おおこの室内、
すでに意味の無い輝き、沈んだガラスの神話、
或ひは冷酷な無言が、死の床に時計の夢を、
又はかたはな物語を傳へた。
深夜のすぐれた思想、まざまざしい姿態、
紫の大理石、無垢の告白、それらは妖氣と神託を守つてつきることを知らない。
はなやかに重く、かちえた眞實をひらめかす花達に永遠の潔白を名のらせよ。
蠟燭と兩手で不思議な信仰をさぐりあてる魂も微笑と香氣をともなつて洗禮の闇の寢床
にやはらかな黑眼をもつであらう。
だが怖るべき靑銅の夢の眼に見えぬ仕業は、
昔の平和と不幸な天禀とを手にしたことであつた。
愛情を强ひられる花達の純白な氣溫と、荒々しい不滅のささやきに、おかしがたい希望、
絕えざる豫感と太陽の冷艶さを夢みながら、
地上に又とない夜の、稀な神秘の枕元で。
『詩抄』(椎の木社 1933)