天文  酒井正平  (詩ランダム)

 

天文       

           酒井正平

 小鳥の花は咲かない事になつてゐる。そして無數の天使の叱言が足跡を付ける。
 窓に盗んだ、それ故その叱言は衣裳をきてゐた、私は昔からそれを認めて居た、以前私は塋の中にゐた、つゞめられた聲を立てゝも彼等は笑はなかつた、失笑は私が覺えておいた、殘して來たのは天使の饒舌でもあつた、それなら手をだしたのは私であるか ! 私は笹の中に居た、私は少なくとも多くの音を愛した、つゞめられた掌を誰も見はしなかつた、私は塔の先へ彼等の手がそびえ始めるのを見た、彼等も又明らかに塋の中にあるのだと感じ、私は私に付いた小鳥と花をとばした、叱言は私をつれてゆかうとしてゐる、私は顏の中でそれをつかみとつた、私は肩をなぜた、人の肩羸い足がとめてあつた、ピンは足よりましであると思ふ前に私は私の咲かない小鳥の花を思はないわけにはいかなかつた。

 

 

 

 

 

 

『文學』(厚生閣書店 1933-03)

 

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