ダダの空音  高木春夫  (稲垣足穂の周辺)

 


ダダの空音

          高木春夫

釘と針がね造りの尖塔
コンクリートの壁
不思議な小太鼓 太陽のバイキン
かぎりなく淸淨な 廻轉椅子
居眠つてゐる砂 壊はれた接吻
なまけ者のブリキ
オスカア、ワイルドの建築物
なんといふ悲しい昨夜
月の破片の白い毒を抱き
羽うちわを翳し
赤い 二ヒリズム講演會に出席した
いたずら者の自動車
女子神學校の 童話
子供のシンジユの 首かざり


粗雜な雲が モウモウと
或る美くしい空地で車の音を立て
むらさきのカアテンが幽靈のやうにブラつき
探海燈の白い夢を見ながら
赤鉛筆をうばいあい


有田音松式の廣吿面には
帽子を お喰べなさい と書いた
ほんとに恐しい鬼子母神のやうに


サンフランシスコの朝寢坊
神經の四足獸 音樂のせなか
アヴヱ・マリアの着物
午前十時の鑛物が灰色のパイプを
くわえ
新聞紙のやうに笑ひ
無數の毛糸を煙りに變え
性的な朝にはサツパリとして
自殺したイエス・キリストの指の
虹色の液體を深夜のガラス窓に映し
黄色い寫眞舘を 女の畫像のやうに
抱きたい
靑い靑いストウブには
原始的風船を投げ棄て
羅馬字型の涙を落としながら
長い 長い 寢臺に近づき
病人のやうに海の香ひを嗅ぎ
ハサミの情熱 がくるくると指を廻し
艶歌的 二十日鼠が死んだ

 

 

 

※原詩には、「太鼓」→「ドラム」、「寢臺」→「ベツド」の振り仮名あり。

『G・G・P・G(ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム)』第2年第3集 大正14年(1925年)3月

 

 


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高木春夫 水の無い景色

 

 


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