分離以後の恒等式 田中啓介  (稲垣足穂の周辺)

 

分離以後の恒等式

            田中啓介

タイアやハンドルに分解された自働車
   ステツキ
恒等式はニツケル製のアートタイトル

街は今さはやかに
白い幔幕うちひるがえし
スープえの思慕は
はるか靑空に
シガレツトの煙

日曜の花束まきちらし
赤いトレイドマークの朝を
するすると
安息が步行は雲で
シガレツトのステーシヨンに
善男善女うちつれて
アルミニユームの敎會に
ペン塗の舞踏
心臓をマツチの如く煌めかし
   食 慾
ソフトフオカスのレンズでサブタイトル
たいように艶視をなげる
薄荷入りの瞳は
排泄作用や
   性慾を意味しない驚愕に
ゴールデンバツト花火に
泪を封じ
しはくちやの膓結に
プロペラをくゝりつけ
グランドシアトルモトマチの
日曜の朝
白靴は
マツチに自敎する。

 

 

 

 

※「たいよう」に傍点。
※「膓結」→「膓詰」?

 

 

『G・G・P・G(ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム)』第2年第8集 大正14年(1925年)8月

 

 

 

田中啓介 月夜とTABACO
田中啓介 星色の街

 

 

 

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