アスフアルト・スクリーン  近藤正治  (稲垣足穂の周辺)

 

アスフアルト・スクリーン

           近藤正治

裏かへしになつたアスフアルトの上に
果てしなくのびてゆく幻燈の新都市では
何處からだつて月ならのぼるよ
新聞から パイプオルガンから 飾窓から
そしてゴールデンバツトの綠色の空へでも
やつてくる月
ピカソの月ならなほさらうれしく
こうしてのぞきめがねを窓え据えたら
星が增えるし ダイヤも增えるし
腐つたアセチリン瓦斯ほどよく光り
群衆の影だつて銀紙らしくキラキラ
タクシーに照り 電車に照り
ガソリンくさい酒塲の隅から
金モールや銀メダルで飾つた情熱が破裂しにくる
そこらあたりが火花に散つて
風が眩しいこの新世界に醉つて
ウイスキーの瓶に赤い淋菌を吹きこみ
ヴラボー ウラボーと
その瓶の底近くから
のぞきこんでゐるハガネ色の貴族は私である。

 

 

 


『GGPG』第4集 大正14年(1925年)4月

 

※「近藤正治」→「こんどうまさぢ」と読むようです。

 

近藤正治 銀座の若いキリスト
近藤正治 ココアの夢

 

 

 

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