水の無い景色  高木春夫  (稲垣足穂の周辺)

 

水の無い景色

            高木春夫

三階の窓から黃いろい聲をだして
私の名前を呼んでゐる
練瓦の累積のなかにぢつと立て寵つて
枠のなかにはめた人像寫眞のやふに
尖らない 永い間獨り言の騷音に聽き
いりながら、決して決して怯えやふとは
しない
椅子はむかふの窓ぎはへコツソリと遁げ
てゆき、雪のやふに眞白な靴下の人形
お禮はあとでするよ
假名假名假名と、悲哀の提灯を振り翳し
てみても追ひつきはしない
馬は遠慮をして這入つてこない


捨て難い荒んだ家の詩韻
淡綠色の直線的悲哀
なんといふ統一した嬉しい氣分
結婚の準備の眞最中のやふに忙しくて
弱々しくて、たるんだ瘠せ木の果てに
毒々しい花が可愛さふな涙を落とす。

 

 

 

※「立て寵つて」→「立て籠つて」か?


『GGPG』第2年第1集 大正14年(1925年)1月

 

 


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