春苑  笹沢美明  (詩ランダム)

 

春苑

           笹澤美明

かつては櫻の苑の中にゐた
あなたの瞳(め)と一緒に、
あなたは信賴され
まるで樹々を支へてゐるやうであつた
やがて花噴く枝を。

あなたは苑の中で堪えてゐた
ゲツセマネの園のやうな
暴風の豫感の中で
私が送り出す獸を
冷かに一匹づゝ捕獲した。

つひに一つの樹から
あなたの掌は降りた
ひとつの世界を招くやうに
それは白く飜へつた
苑に光りの飛沫を與へながら。

かくて櫻の苑の中にゐた
あなたの瞳と一緒に
あなたが壞れた私を支へ
花噴く枝々の間から
私が昇天するまで。

 

 

 

笹沢美明 河

 

 

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