高屋窓秋  (モダニズム俳句)

 

・我が思ふ白い靑空ト落葉ふる

・頭の中で白い夏野となつてゐる

・白い霞に朝のミルクを賣りにくる

・虻とんで海のひかりにまぎれざる

・蒲公英の穂絮とぶなり恍惚と

・さくら咲き丘はみどりにまるくある

・灰色の街に風吹きちるさくら

・いま人が死にゆくいへも花のかげ

・靜かなるさくらも墓もそらの下

・ちるさくら海あをければ海へちる

・夜の土に落ちて白きは蛾にありし

・飛びし蛾の黃の殘光を闇放つ

・みだらなる蛾の裸身眼を燒きにくる

・白蛾病み一つ墜ちゆくそのひゞき

・樹々顫ひ蛾の飛ぶ綾に星あかり

・闇の中蛾の眼光の目もあやに

・やはらかき小徑とおもふ月あかり

・月光をふめばとほくに土こたふ

・闇の闇月落つ海は黃に染まり

・祭夜々靑き花火のひらききゆる

・山鳩よみればまはりに雪がふる

・海黑くひとつ船ゆく影の凍み

・日空しくながれ流れて河死ねり

・一人泣く少女は死兒を知つてゐた

・からからと骨鳴り花の蔭に老ゆ

・赤い雲悔と憎しみの湧き上る

・嬰児抱き母の苦しさをさしあげる

・闇底にとおく花咲き渴く夜か

・花を縫い柩(ひつぎ)はとおく遠くゆく

・花かげの妊娠河ひえびえ

・ひかりさえ氷晶となり草絕えたり

・氷界の思慕炎々と焚くは火よ

 

 

 

 

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