日曜日的な散歩者
水蔭萍人
これらの夢を友、S君に──
僕は静かな物を見るため眼をとぢる
夢の中に生れて来る奇蹟
回轉する桃色の甘美……
春はうろたへた頭腦を夢のやうに──
碎けた記憶になきついてゐる
青い輕氣球
日蔭に浮く下を僕はたえず散歩してゐる。
この呆けた風景……
愉快な人々はゲラゲラと笑つて實に愉快ぶつてゐる
彼等は哄笑がつくる虹形の空間に罪悪をひいて通る。
それに僕はいつも步いてゐる
この丘の上は輕氣球の影で一パイだ、聲を出さずに歩く……
聲でも出すとこの精神の世界が外の世界を呼び醒ますだらう!
日曜でもないのに絶えず遊んでゐる……
一本の椰子が木々の葉の間に街をのぞかせてゐる
繪も描けん僕は歩いて空間の音に耳を傾ける……
僕は僕の耳をあてる
僕は何か悪魔のやうなものを 僕の體のうちに聞く……
地上は負つてはいないだらう!
附近の果樹園に夜が下りると殺された女が脱がれた靴下をもつて笑ふといふのに……
白いその凍つた影を散歩する……
さよならをする時間。
砂の上に風がうごいて──明るい樹影、僕はそれをイリタントな幸福と呼ぶ……
「台南新報」1933年3月12日
『日曜日式散歩者』(行人文化実験室 2016年9月)より