短詩 水蔭萍(楊熾昌) (詩ランダム)

短詩

                                         水蔭萍人

 

A.白い曉
タイナンの鋪石道を步いて行つた人
うつむいて行つた人
死の國へ……
白い曉の中へ消えて行つた人

B.戀人
虐殺された女人の首……
※ ※
ああ……君の戀人が笑つている
君の戀人が笑つている

C.黎明
美しい夢……
乳色のモヤをとおして
窓に綠りの葉影が私を呼んでいる……

D.秋のにほひ
ガス燈の立つているアオギリの下
白い手袋の女が
獨り立つて……

E.冬
花屋の中は
菊の匂ひで一つぱいだ
オヤヂが菊の葉を食べている
※ ※
海上の濃靄〈ガス〉のやうに冷たい

F.冴えた夜空
落葉樹の枝先に凍つてい星
駄者座、雙子座……
※ ※
オリオン座 ギヤマンの花が
夜空に笑つている
※ ※
冴えた冬の夜空は
スバラシイ甘いゼリ-菓子である……

G.眠れる女
冷たく橫はつた死人
彼女は魂の花園を散步している
※ ※
心臟が胡弓をひいている……

H.夢
真赤な血を吐いて死んだ女
今もその血潮に濡れた唇が
アルレグロのテンポで唄ひつづけている……
※ ※
虐殺者の歌
ああ……血の讚美歌を歌つている

 

 

「台南新報」1932年1月18日 水蔭萍人名義

黃建銘『日治時期楊熾昌及其文學研究』より

 

水蔭萍 雄雞と魚
水蔭萍 ドミ・レエヴ

水蔭萍  日曜日的な散歩者 

 

 

 

 

 

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