2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

天国への通路  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

天國への通路ou Quand l'Eternel s'aproche de la fin de L'ETERNITE 山田一彦 Ⅰ 例へば貴方は靜かに花でふちどつた鏡にうつるように眼鏡をはづせ,庖丁をもつて眞赤い林檎を眞二つにわれ。 花の鏡の花辨のゆれないように,最善を盡して眞赤い林檎を眞中から眞…

綴れない音信  井上多喜三郎  (詩ランダム)

綴れない音信 井上多喜三郎 原稿紙を展げる 窻から月がおりてくる 風も靑い蚊帳の中 いつも下手な僕の字 皆 泳いでいつてしまふ。 ※「展げる」→「展(ひろ)げる」。原詩は振り仮名あり。 『MADAME BLANCHE』第8号 昭和8年(1933年)7月 井上多喜三郎 花粉井上多…

雲  西條成子  (詩ランダム)

雲 西條成子 大理石の藝術の如くにも雲よ そなたの謙讓さは誇りかに形造られ 消えうせる夢の精靈よ はてなくさまよへる白菊への思慕は メールヘンの世界に咲いて 淚は靜かに草の心をやはらげるのでした。 『MADAME BLANCHE』第12号 昭和8年(1933年)12月 西條…

再会  西條成子  (詩ランダム)

再會 西條成子 靑きみかんを剝く日の様に 香る愛の中での祈りの様に 爪色の空氣は振動して うらうらと物語りの煙りの中に 思ひ出は黃菊の唄を唄ふ。 『MADAME BLANCHE』第13号 昭和9年(1934年)2月 西條成子 青き絵筆に西條成子 雲西條成子 独楽西條成子 策取…

洋服店の賣子など 酒井正平  (詩ランダム)

洋服店の賣子など 酒井正平 うつし取らない日射しをかんじ フトコロで 八ツ手の葉が切りぬかれた 駈けだしながら あそこでもカラス・ウリの實が唄つてゐる あとのつかない顏が 廣場にゐた…… 『MADAME BLANCHE』第17号 昭和9年(1934年)8月 酒井正平 画布に塗…

肢  酒井正平  (詩ランダム)

肢 酒井正平 きつとみてゐる硬い顏からはなれて數字ともちがふしノハラではあそんでもキマツテヰルそういふ時に汽車が動き竹の林は薄い日を嚙んでる 『MADAME BLANCHE』第17号 昭和9年(1934年)8月 酒井正平 画布に塗られた陰について酒井正平 航海術酒井正平…

ロマンに做つて  西崎晋  (詩ランダム)

ロマンに做つて 西崎晋 海のなかの海のやうにと歌つたあなたの友へ訪れる陽のひかりもないヴイタ・パブリカ通りのあたり ✱ ひとりは眼球にひとりは逃走する野獸の頰に隠れて佛蘭西歴史はきてゐます 『MADAME BLANCHE』第10号 昭和8年(1933年)10月 詩ランダム

海の方へ  伊東昌子  (詩ランダム)

海の方へ 伊東昌子 犬羊齒の燃える音がする 暗いこの道を かつてはその胸に匂つた 花飾りのやうに むすぼれた氣品にとまどひして 『MADAME BLANCHE』第10号 昭和8年(1933年)10月 伊東昌子 失踪するエロイカ伊東昌子 南方飛行便 詩ランダム

独楽  西條成子  (詩ランダム)

獨樂 西條成子 栗色の馬車に乗つて太古よ あの音は睫毛の洗禮です 思はずも燈した螢は 澄んで來た生誕に驚き 休憩室は寒國の匂ひです。 『MADAME BLANCHE』第14号 昭和9年(1934年)3月 西條成子 青き絵筆に西條成子 雲西條成子 再会西條成子 策取西條成子 プ…

三宅史平  (モダニズム短歌)

・でぱあとなどの空を泳ぎまはる、廣告飛行機は戀人のない金魚です。失禮なものをくつつけたまま 燕尾服で せかせか お散歩です ・つぎ、順天堂まへでございます、まがりますから、さて、御注意願ひますれば くりいむ色のあぱあとの たくさんある窓が いつせ…

南方飛行便  伊東昌子  (詩ランダム)

南方飛行便 伊東昌子 流行りの演說については地方的だと云ふ非難があり晴れた日の飛行について手紙を書く綠色の市場へ急ぐ飛魚たちの腰を見給へコムミュニストたちのロマネスクが問題になるスヰイトピイ栽培と勞働價値について及び草花の懐疑と云ふ著書を持…

神崎縷々  (モダニズム俳句)

『天の川』の神崎縷々と篠原鳳作らの無季俳句を認めるか否かで新興俳句運動は分化したと云われる。その神崎縷々は37歳で早逝した。その後師の吉岡禅寺洞の手で『縷々句集』が編まれた。その句集の全句です。 ・茱萸の花にぼろをほしたり草の宿 ・がらがらの…

青き絵筆に  西條成子  (詩ランダム)

靑き繪筆に 西條成子 薔薇の微笑の束の間もあなたはほころびる遙かなる掟の前に美しい寶石を思ふ瞳の様に象徴の夢はなほも蒼穹をめざしてあゝ重ねられたる祝杯の音はいつも澄んでゐましたのに。 『MADAME BLANCHE』第15号 昭和9年(1934年)4月 西條成子 雲西…

花占ひ  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

花占ひ ou l'amour d'IOKANAAN 山田一彦全世界の軍人さん達が一諸に髭を剃つて机を竝らべて禮服のカウスに戀の詩を書く日であります.シルクハツトを歪めないで冠つたIOKANAANは寢臺の上によこたわりながら:サロメは余を愛して居る・サロメは余を愛して居な…

分離以後の恒等式 田中啓介  (稲垣足穂の周辺)

分離以後の恒等式 田中啓介 タイアやハンドルに分解された自働車 ステツキ恒等式はニツケル製のアートタイトル 街は今さはやかに白い幔幕うちひるがえしスープえの思慕ははるか靑空にシガレツトの煙 日曜の花束まきちらし赤いトレイドマークの朝をするすると…

星色の街  田中啓介  (稲垣足穂の周辺)

星色の街 田中啓介 星色の街でピカソの月が靑ざめた幾何學の頂角に八月のリンゴとなり花火となつて煌き散り失せガチヤン ガチヤ ガチヤブリキ製の蛾が窓をかすめる機械な音波にしばしは燐光の竊盜兒カイネ博士の十二使徒もゼンマイのきしりを喰べまよなかあ…

ダダの空音  高木春夫  (稲垣足穂の周辺)

ダダの空音 高木春夫 釘と針がね造りの尖塔コンクリートの壁不思議な小太鼓 太陽のバイキンかぎりなく淸淨な 廻轉椅子居眠つてゐる砂 壊はれた接吻なまけ者のブリキオスカア、ワイルドの建築物なんといふ悲しい昨夜月の破片の白い毒を抱き羽うちわを翳し赤い…

桃色の湖の紙幣  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

桃色の湖の紙幣 山田一彦 アフロデイテが小便しにかかつたら產んだ卵から桃色の花嫁が蝶蝶を追つて居る。女の女の少女の MANNEQUIN のアフロデイテは桃色の蝶蝶の蝶蝶の鳩の腕に花をさして居る。卵の卵を賣つて牛を買ふ紙幣の Mannequin―girl小便しそうにな…

Poesie d'OBJET d'OBJET 山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

Poesie d'OBJET d'OBJET 山田一彦 第五の彼である船長の息子。は夢の夢の旗の泡となる。その午後大女は抱擁して居る。額の狹きは春の唱歌。を歌ふ魚の魚の人魚。 Desillusion d'illusion Desillusion d'illusion流行の派手の鬚。薔薇の垣根のある飾窓の花瓶…

プリズムの夢  西條成子  (詩ランダム)

プリズムの夢 西條成子 レコードの上に踊る人形の様にもめまぐるしい虹色よそして失はれた南方の日々を懐しむ一ときには紫色の浮力に乗つてうるはしい肖像の搖り籠の中で天使のプロフィルを眺めやう。 『MADAME BLANCHE』第17号 昭和9年(1934年)8月 西條成子…

ハツプスブルグ家の森  近藤東  (詩ランダム)

ハツプスブルグ家の森 近藤東 宵闇がお前の室をだんだん暗くする。 お前はそれに逆らつて化粧する。 それは百年づつ昔を物語る。白い下肢のあたりから。 ハツプスブルグ家の森を愛撫する。 僕は僕の旅行を中止する。 鏡の中の椿の花が僕の唇へとんでくる。 …

春の約束  澤木隆子  (詩ランダム)

春の約束 澤木隆子 空の鏡が拭き清められたうらゝか地上の花を愛しむには面映ゆいけれど二ムフのやうに快い匂ひをふり撒き硝子の家から花達は招く 召し上れ 召し上れ 魔法色のお砂糖水彼女らの和やかな身のこなしに牽かれてうつかり人はそれをのむであらう二…

立原道造  (モダニズム短歌)

モダニズム短歌の番外編。東京朝日新聞の有名な企画「空中競詠」以後、結社をあげて新短歌へ移った前田夕暮の『詩歌』へ投稿された作品を中心にしています。旧制高校時代の作品で、ペンネーム三木祥彦を使っています。旧制中学時代は山本祥彦名義でアララギ…

夏の一頁  山中富美子  (詩ランダム)

夏の一頁 山中富美子 柱の下で過ぎて行く夏月曜日の長椅子の花の一むれつかれた頭を、そこにうづめる。瞳をそれて空の方へ。 雲は正午の壁の向ふに。玻璃の海の恐怖を浮べてものうく眠る。 日にやつれたガラスの茂みに涼しい日向の時計は空しく綠にかこまれ…

窓  井上多喜三郎  (詩ランダム)

窗 井上多喜三郎 インキ壺の海に 沈んで かなしい 僕でした。 颯爽と ゆきすぎる 白いパラソルの娘 僕は掬われる 原稿紙は 風にふかれて ハンモツクでした。 ※原詩には「パラソルの娘(こ)」と振り仮名があります。 『MADAME BLANCHE』第7号 昭和8年(1933年)6…

Mon cinematographe bleu 山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

Mon cinematographe bleu 山田一彦 蟹のやうな私の叔父さんが白百合の花を片手にささへて靑い錨で海に沈みますが浮きあがると浮袋をつけた私の妹になつて居るのですが 諸君べつに不思議ではないでせうね OEDIPE ROI には母親が自分の籠の娘たちを抱いて居る…

マダム・ブランシュ3  冨士原清一  (稲垣足穂の周辺)

3 白い霧がふつてきました。洋燈(ランプ)はさんさんと咽び、ガラスは昏々と眠り續けてゐます。高層建築は薄すれ、寺院の圓頂(ドーム)は夢のやうに沈み始めました。いま街は海底に明るい潜航艇の漏光を想像させ、私はこの白色の瀰漫してゐる濕潤ある液狀空間…

マダム・ブランシュ2  冨士原清一  (稲垣足穂の周辺)

2 すくすくと豊麗な月がシヤボン玉のやうにあがり、はたはたと靑いアルミニウムの旗をひるがへせば、實に素晴しくも華やかなガソリンの夜です。──それは靑い、靑い、靑い。はや踊り場のクラリネツトは風邪をひいてしまひました。 まあ──、なんて妙に明るい月…

高群郁  (モダニズム短歌)

久保田正文編『現代名歌選』は、新短歌を前衛短歌運動の一環として、プロレタリア短歌と区別していて、その新短歌のチャンピョンとして上田穆、中野嘉一、山田盈一郎、林亜夫とともに高群郁を ひとまとめにしているのですが、手に取った作品の多くがテーマ的…

寛大の喜劇  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

寛大の喜劇 山田一彦 Muse abstraite 圓るい鳩はミロのヴエヌスである: と太つたエレエヌはトーモロコシを見ながら唱つて居る 天子になつた俳優 "L'OPERA est une sorte des Venus" と太つた天子は笑ふ: オペラグラスを毀はした人間は鼻眼鏡を着けよ opera…